第6章 流されて異界
第151話 誓約
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氷空には永遠に欠ける事のない蒼き月。今宵は薄い雲すら掛かる事もなく、その冴えた美貌を地上に向けて魅せている。
竹製の高き壁に、その向こう側から覆い被さるように枝を張り出して来ているのは松であろうか。まるで見事な水墨画の如き独特の世界をここに創り上げていた。
飽くまでも仮定の話なんだが、……とそう前置きをした上で、
「もしも、俺が去った後に――」
最初に設定された通りの年齢……。何時もよりやや幼く見える彼女の瞳を覗き込みながら、そう告げる俺。
小柄で華奢。通常の女子高生としては線が細く、中性的な面立ち。全体的に色素が薄いのか、黒ではなく薄い紫色に見える髪は少し毛先の整っていない……シャギー・ショートボブ。先ほどまでは確かに冷たく、日本人にしては白過ぎる肌が目立っていた彼女。しかし、今はかなり熱いお湯の影響からだろうか、ほんのりと赤く――
普段の実在する事すら疑わしく思えるような儚さは少し薄らぎ、変わって奇妙な色気のような物も漂わせ始めている。
「俺との間の交信が途絶えるような事が起きたら。もしも、俺の存在を感じられなくなった時には、新しい契約者を見つけて欲しい」
今の有希なら自己メンテナンスと人間としての普通の食事。それに、世界から取り入れる気だけでも百年や二百年は命脈を保つ事が出来るはず。その間に、俺以外の新しい契約者を見つける努力をして貰いたい。
ぬばたまの、わが黒髪に――などと考えず、其処から先の自分の未来の事を一番に考えて欲しい。
これはハルケギニアに帰る事に因り、自らの死の可能性が高くなる事に直接言及したに等しい内容。確かに、俺の意志により、有希との間の霊道を閉じる事は可能でしょうが、そんな事を行う訳もないし、する理由もない。
しかし――
当然のように首を横に振る有希。もっとも、これは当たり前の事。誰だって、近しい人間の死を予告された所で、簡単に受け入れられる訳はない。
まして、有希が知っている能力から考えると、俺が死ぬ可能性は、大抵の人間が死ぬ可能性よりもずっと低い。
――少なくとも、普通の人間として暮らして居る限りは。
「普通に考えるのなら、俄かに信じられる話……と言う訳にも行かないか」
確かに、こんな荒唐無稽な話のすべてを信じて貰うのは難しいか。そうため息混じりに呟く俺。何周と言い切る事は出来ない。しかし、それでも俺には複数回の人生の記憶があり、それが自分の未来。武神忍と名乗る少年の人生で明らかな未来に当たる時間にまで及んでいる。……などと言う事が。
それに、そもそも死すべき未来が本当に分かっているのなら、その未来を覆す為の努力をしろ、と言うのが筋。
何故なら、絶対に変えられない未来など存在していないから。絶
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