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SAO〜円卓の騎士達〜
第六十二話 助けた物
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な囁きが、怯え、縮こまった詩乃の意識を揺らした。
ぴくりと身体を震わせて、詩乃は左隣に座る俺を見た。
視線が合うと、俺は小さく頷いた。
大丈夫だ、と眼で伝えるように。 促されるように、再び二人の少女に視線を向ける。
二人の少女は微笑みを消すことなく、手を差し出し続けている。
詩乃の腕は、鉛が括り付けたかのように重かった。
それでも詩乃はその枷に抗い、ゆっくり、ゆっくりと右手を持ち上げた。
二人の少女が差し出す手までの距離は、途方もなく長かった。
近づくにつれ、空気の壁が、詩乃差し出す右手を跳ね返そうとしているように感じた。
次の瞬間、詩乃右手は、明日奈と桜の手に包まれていた。

詞乃「あ、」

詩乃は意識せず、微かな吐息を漏らした。
何という温かさだろうか。 人の手というものが、これほどに魂を揺さぶる感触を持っていることを、詩乃は忘れていた。
何秒、何十秒、そのままでいただろうか。
明日奈は言葉を探すように、ゆっくり喋り始めた。

明日奈「あのね、朝田さん、詩乃さん。 今日、この店に来てもらったのには、もう一つ理由があるの、もしかしたら詩乃さんは不愉快に感じたり、怒ったりするかもしれないと思ったけど、私たちは、どうしてもあなたに伝えたいことがあるんです。」
詞乃「伝えたいこと? 私が、怒る?」

言葉の意味が解らず聞き返すと、詩乃の隣に座る俺が、どこか張り詰めた声を出した。

拓真「詞乃。 まず、君に謝らなければならない。」

俺は深く頭を下げてから、漆黒の瞳でじっと詩乃を凝視した。

拓真「俺、君の昔の事件のこと、ここにいる全員に話した。 どうしても、皆の協力が必要だったんだ。」
詞乃「えっ?」

俺の言葉の後半は、詩乃の意識に届かなかった。
知っている!? あの郵便局の事件のことを、十一歳の詩乃が何をしたかを、皆は知っている!?
詩乃は全身の力を使い、握られてる右手を引き抜こうとした。
だが、明日奈と桜は、詩乃の右手を握り続けた。
少女たちの瞳が、表情が、そして伝わる体温が、詩乃に何かを語りかけていた。
だが――何を? この手が拭えない血で汚れていると知った上で、何を伝えることがあるというのか?

桜「詩乃さん。 実は、私と龍也と明日奈と和人、拓真は、昨日学校を休んで、***市に行ってきたんです」

桜の口から発せられた地名は、間違いなく、詩乃が中学卒業まで暮らしていた街の名前だ。

詞乃「な、なんで、そんな、ことを、」

詩乃は、何度も首を左右に振った。
俺が静かに口を開いた。

拓真「それはな、詩乃。 お前が会うべき人に会っていない、聞くべき言葉を聞いていないからだ。 もしかしたら、詩乃を傷つけ
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