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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百六十六話 焦燥
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ウンシュバイク公が……」
言い募ろうとするローエングラム伯をエーレンベルク元帥が遮った。何処か付き合い切れぬと言った口調だった。
「ローエングラム伯、卿は反逆者を信じるのか? それとも信じたいのか? あれが味方を募るための謀略だとは何故思わぬ」
「!」
「私は忙しいのだ、これで失礼するぞ」
何も映さなくなったスクリーンを見ながらローエングラム伯は溜息をついた。おそらくエーレンベルク元帥はローエングラム伯がヴァレンシュタイン元帥の安否の確認よりも宇宙艦隊司令長官になりたがった事を不快に思ったのかもしれない。
ローエングラム伯は焦ったのだ。昔の自分がそうだった、焦りから才気を振り回した。それがどれだけ危険かも分からずに自分の才気に溺れた。示すべきは才気ではなく覚悟。その言葉の重みを今ほど感じた事は無い……。
「閣下、シュムーデ提督ですが協力は出来ないと言ってきました」
オーベルシュタイン准将……。何処か暗い雰囲気を持った人物だ。切れる人物ではあるが余り親しくなりたい人物ではない。
「そうか……」
「既に司令長官の命が彼らに下っているようです」
「訓練ではないのか」
ローエングラム伯が訝しげな声を出した。自分の知らないところで作戦が動いている。それが不満なのかもしれない。
「極秘任務だといっていました。それ以上はなんとも……」
「……」
おそらく政治謀略を含めた作戦なのだろう。ローエングラム伯の下に来て分かった事はヴァレンシュタイン司令長官が情報を取捨選択してローエングラム伯に流していると言う事実だった。
純軍事的な作戦に関しては殆ど隠す事はない。しかし政治謀略に関して言えば殆どと言って良いほど隠している。父は余り話してくれないが、父の話と付き合わせるとそうとしか思えない。
「副司令長官閣下、ヴァレンシュタイン司令長官より会議開催の通知が届きました」
「!」
「各艦隊司令官以上の者は十七時に第五十七会議室に集まれとの事です」
リュッケ中尉の言葉に司令部の人間たちが一斉に中尉を凝視した、そして時計を。時刻は十六時三十分、会議開催まで残り三十分だった……。
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