巻ノ五十八 付け城その三
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「兵糧も尽きます」
「わかっておる」
氏政も応えて言う。
「それはな」
「では」
「降らぬ」
我が子の言葉を撥ねつけてだ、氏政は言った。
「決してな」
「しかし父上」
「この城は陥ちぬ」
まだこう言うのだった。
「何があってもな」
「ですが囲まれますが」
「何年もか」
「ああしてです」
「例え付け城が築かれてもあれだけの兵が何年も囲める筈がない」
小田原を囲む兵は十万はいる、その兵の数を見ての言葉だ。
「あの城だけになればな」
「その時にですか」
「攻めるまで、だからじゃ」
「降ることはないですか」
「そうじゃ、その必要はない」
築かれている城を血走った目で見つつ言っていく。
「よいな、敵が去るのを待つのじゃ」
「ではその間は」
「他の城には忍達を放て」
彼等だけが知っている道を使ってというのだ。
「よいな、そして戦えと伝えるのじゃ」
「これまで通り」
「待つのじゃ」
まだ言う。
「例え付け城が築かれてもな」
「では」
「うむ、戦うぞ」
こう言ってだった、氏政は氏直達講和派の言葉を撥ねつけてまだ籠城を決めていた。秀吉はここで降る様に使者を出したが。
氏政から追い返されたと使者に言われてだ、にんまりとしてこう言った。
「そうであろう」
「では」
「わかっておった」
北条の動きはというのだ。
「そうなるとな」
「そうなのですか」
「御主には褒美をやろう」
「ですが」
「降らせなかったとか」
「それで褒美は」
「御主は御主の仕事をした、ここで降る筈がない」
つまり北条が秀吉の読み通りに動くのかを確認したに過ぎないというのだ。そして使者はその責を果たしてくれたというのだ。
「だからじゃ」
「それがしは」
「褒美をやる、ほれ」
傍の者に顔を向けてあるものを持ってこさせてだった。秀吉はそれを自ら手に取り使者のところに来て手渡した。
「取っておけ」
「これは」
「些細なものじゃがな」
「いえ、これは」
ここでだ、使者はその褒美を見て目を瞠った。それは金貨だったのだ。それも相当にある。
その金貨を見てだ、使者は秀吉に言った。
「ただ行って帰っただけで」
「それだけのことをしたからじゃ」
「ここまでの褒美をですか」
「まだ欲しいなら言ってみよ」
「いえいえ、とんでもない」
使者は首を慌てて横に振って応えた。
「これでもう充分過ぎる程です」
「そうか、ではな」
「はい、有り難く」
恐縮してだった、使者は秀吉に平伏してだった。
その金貨を手にして彼の前から消えた、そして。
秀吉は使者を笑顔で見送ってからだ、居並ぶ諸将にその笑顔のまま言った。
「ではこれからじゃ」
「はい、策をですな」
「仕掛けてい
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