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真田十勇士
巻ノ五十八 付け城その一

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                 巻ノ五十八  付け城
 秀吉は小田原城に来た、そのうえで。
 大軍で城を囲ませた、海にもだった。
 多くの船がある、秀吉はそこまでして城を完全に囲んだうえでだった。彼の周りにいる諸将に対して言った。
「これからな」
「それでは」
「あれをする」
 こう秀長に言った。
「これよりな」
「ですか」
「あれとは」
「あれとは一体」
 殆どの諸将は秀吉の今の言葉に問い返した。
「こうして城を囲みましたが」
「まだ何かありますか」
「海も囲みましたが」
「それで終わりではないのですか」
「こうして城を囲んでもじゃ」
 秀吉は己が率いるその城を見つつだ、彼等に悠然と笑って答えた。
「あの城は陥ちぬ」
「ではです」
 ここで言ったのは家康だった。
「小田原城を囲んだうえで」
「北条家の他の城をじゃな」
「はい、一つ一つ攻め落とされていきますか」
「徳川殿の言われることもっとも」
 秀吉は家康のその言葉をだ、まずはよしとした。
「それが為にこの城を囲み」
「他の軍勢をですな」
「北条家の他の城に向けておる」
「ではこの城を囲み動けなくし」
 家康は秀吉の己への称賛の言葉を受けつつさらに言った。
「支城を攻め落としていきますか」
「左様、しかしそれだけではな」
 秀吉はその猿面をにこやかにさせて言うのだった。
「時間がかかるし面白くない」
「面白くないですか」
「うむ、だから今からな」
 秀吉はここで己の考えを述べた、そして。
 そのうえでだ、こう言ったのだった。
「どうじゃ」
「何と、そうされますか」
「ここで、ですか」
「そうされますか」
「うむ、では兵を集めてじゃ」
 秀吉は笑ったままさらに言った。
「やっていこうぞ」
「はい、では」
「その様にしましょう」
「これよりです」
「一気に」
「城は城を攻めるものではない」 
 また小田原城を見てだ、秀吉は言った。
「人を攻めるものじゃ」
「それもまたですか」
「人を攻めるもの」
「そうなのですな」
「人を攻めるということは人の心を攻めること」
 それになるというのだ。
「だからじゃ」
「それでは」
「ここでそうして」
「ゆうるりと攻めますか」
「小田原城を」
「これから楽しみじゃ」
 こう言ってだ、秀吉は采配を振るうのだった。そして。
 兵達は城を囲んだ者達を置きそのうえで多くの兵達が動きはじめた、するとだった。
 小田原の近くの山の方の動きを見てだ、北条の兵達はすぐに言い合った。
「何じゃあれは」
「あれは何じゃ」
「何をしておるのじゃ」
「兵達が集まりだしたぞ」 
 こう言い合う、そして。
 その動きを見るとだ、これが。
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