第二十五話 窮地
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強気な顔つきから一転、葵はふうっとと息を吐き、ストンと椅子に腰を下ろした。表情は暗い。
「こんなことになるのなら、姉様たちも一緒にいてほしかったな・・・・。」
葵は華奢な指を追って数えた。敷島、初瀬、朝日、そして三笠。よく前世では自分の名前が有名であるが、実を言えば三笠は敷島型戦艦の4番艦であり、三笠型ではない。艦娘の前では元連合艦隊総旗艦として、姉らしく振る舞っているが、末っ子として時には姉たちに頼りたくなることもないわけではなかった。
もしも、姉様たちがいてくれたら――。
と、葵は思う。もしもいてくれたら、3人の姉はどんな風なのだろう。葵は知らず知らずのうちに、姉たちの姿を想像していた。勝気で皆をけん引していくネームシップである長姉敷島。艦隊の冷静な頭脳をもつ次姉朝日、そして自分に近く、優しくしてくれる三姉初瀬。根拠もないことだが、何となくこの像が当てはまるんじゃないのかと葵は思っていた。
バカみたい、と葵は薄く笑った。そんなことを考えて一体何になるのだ。自分は今たった一人。艦娘のように同型艦の姉妹も誰もいない。そもそも自分は艦娘ですらないのだ。
この現世では自分には姉と弟がそれぞれいるが、3人ともずっと軍属として働いているため、中々会う機会がない。そのためか、たまにあったとしても他人同士のような気さえしてしまう。
不意に切ない気持ちがこみ上げてきた。今のこの時ほど姉妹の存在が欲しいと思ったことはなかった。
そっとドアがノックされる音がした。
「どうぞ。開いているわよ。」
葵は椅子に座ったままつぶやくようにして答えた。
失礼します、と小声と共に大鳳が入ってきた。
「先刻依頼を受けた被害結果の詳細の報告をお届けに上がりました。それと・・・・私たちをお呼びだというので・・・・。」
「ありがとう。報告書はそこに・・・置いておいてくれる?」
大鳳はそっとテーブルに報告書を置いた。
「お疲れですか?」
葵は咳払いした。まさか自分がセンチメンタルに浸っていたとは口が裂けても言えない。絶対に。
「まぁね。ここの所ずっと後処理で忙しかったから。でも、それはあなたも同じことでしょう?空母艦隊の指揮官として、兵器開発の担当として、そして私付きの秘書連絡官としてあなたも多忙の身なのだから。」
「いいえ、私など葵さんにくらべればまだまだです。」
葵はけなげな、そして奢ることのない大鳳を好もしく思っていた。赤城、加賀、飛龍、蒼龍らは連合艦隊の機動部隊の中核として君臨する精鋭部隊たちだが、ともすれば自らの自信と誇りをあらわにするところがある。それでは重要な戦局での戦術・戦略の選択において自らの経験と自信を優先しがちになり、司令部からの命令を無視しかねないこともありえると葵は思っていた。むしろ必要なのは大鳳のような艦娘なの
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