STARDUST唐eLAMEHAZE/外伝
吉田 一美の奇妙な冒険 「前編」
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こんな所にこんなお店があるなんて知りませんでした」
そう言って振り向いた少女の瞳に映る、男の姿。
氷のように澄んだ肌と雪のように白い髪。
幾何学図形を象った模様の帽子を被り、素肌に同じデザインのネクタイと
十字型の細隙が無数に入った薄地のスーツを着ている。
長身細身の充分以上に美形と言っていい風貌だったが
ソレ以上に少女が瞠目したのは、だらりと垂れ下がった片方の袖。
その男には 『左腕が無かった』
「あぁ、 “コレ” かい?」
「ご、ごめんなさい!」
男が事も無げに空洞の腕を上げるよりも速く、少女は深々と頭を下げた。
人の支障がある部分をジッと見るなんて、なんて無神経なコトをしてしまったんだろう。
羞恥と罪悪感で座り込みそうになる少女に、男は柔らかな物腰で言った。
「フフ、まぁそう気にしないで。それに随分昔の話なんだ。
ある所で、ちょっと 『掃除屋』 に噛み付かれて、ね」
(掃除、屋?)
顔を伏せたまま瞳を丸くする少女。
動物の死骸を食べるハイエナやジャッカル、コンドル等をそう呼ぶと聞いた事があるが。
昔狩りか何かの仕事をしていて、その時に負った傷なのだろうか?
「まぁ最初は不便だったが、慣れればどうと言う事はない。
ほら、もう顔を上げてくれないか? 店主が客に頭を下げられては立つ瀬がないからね。
それとも、もしかして君のその綺麗な 「手」 を、私にくれるのかな?」
「本当に、ごめんなさい」
冗談めかした言葉にもう一度謝罪した少女は、改めて男を真正面から見つめる。
20代前半に見えるが、その全身から醸し出される怜悧な雰囲気から
実際はもう少し年上なのかもしれない。
片腕が無い事を除けば、要所要所が整い過ぎているその男の姿は
何故か現実感を消失した印象を少女に与えた。
そのとき。
「ンニャン♪」
唐突に、店の何処かで猫の鳴き声がした。
「ヤツめ、眼を覚ましたか」
男はその灰色の瞳を細め、やれやれと言った表情で踵を返す。
少女も自分が来店した時に外の猫が入ってしまったのではという憂慮から
男の後に続いた。
レジらしき物のないカウンターの裏側、
そこに観葉サボテン位の小さな鉢植えがあり
その中にチューリップのような緑色のモノが見えた。
特に気にも止めなかった少女の目の前で、
「ニャアア〜ン♪」
いきなり 『その植物が』 鳴いた。
「ひゃぁッ!」
想わず背後へ飛び去った少女に、男は頭を掻きながら言う。
「驚かせたかい? すまないね。
普段は誰が来ても大人しく眠っているんだが、
どうやら君の “匂い” が気に入ったらしい。
まぁうるさいだけで特に害はないから適当に無視してくれないか」
「ンニャン♪ ニャウ♪」
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