月夜の出会い
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あなたはこれから何をするの?」
すると突然先程までの笑みを消して真剣な表情でそう言ってきた。
「何って…療養とリハビリですかね?」
それ以外に目的は無いので叶夢はそう答えるしかなかった。
「そうじゃないわ。病から復帰し療養する、ここまではいいわ。けどその後は?」
「……」
考えていなかった。思えば叶夢は高校中退のニート状態であり勉学も中卒のものだ。ここから大学に行こうにも相当勉強しなければならないし就職しようにも世知辛いこの時代中卒を雇ってくれる職場が都合よくあることもないだろう。ブラックなら別だが。
「あー…現実から逃げたい…」
「ふふ、典型的なニート思考ね」
そう言うと八雲紫は立ち上がり少し歩いて振り返りこう言った。
「現実から逃げたい。その願い、叶えてあげましょうか?」
少し理解するのに時間を要した。叶えるだって?現実から逃げたいっていう俺の冗談交じりの願いを?
「えっと、どういう事ですか?」
「どうもこうもそのままの意味よ。貴方をこの現実から逃がしてあげるって言ってるのよ」
冗談だろうか。それなら笑うべきだろうか。真剣にそんなことを考えていると
「冗談ではありませんわ。私にはそれができますもの」
自信たっぷりという様子で笑みをたたえている。元々何処か妖しい人だと思っていたが笑っている時は特にその妖しさや底の見えなさが顕著に表れている。
「心が読めるんですか」
「あら、そんなこと出来ませんわ。私は覚ではありませんから」
胡散臭い。そう率直に思った。だがこの時叶夢の心に好奇心が芽生えた。この人は何処か得体が知れない。もしかしたら本当に現実から逃がしてくれるのかもしれない。方法はわからないが。
「殺す……とか言いません?」
「うふふ、貴方こそ冗談が上手ね。そんな物騒なことはしませんわ」
何故だろう、全く信じられない。しかし話している内に好奇心はどんどん広がってゆき気づけばこう言っていた。
「じゃあ、お願いします」
「ふふ、ありがとう」
何故かお礼を言われた。
「それじゃあ、少しの間目を閉じて。私がいいと言うまで」
「はい」
言われた通り目を閉じる。そして考える。今から自分の身に何が起こるのか、現実から逃がすとはどういう事なのか。一体この人は何者なのか。
「はい、もういいわよ。目を開けて」
思考を遮断し言われた通り目を開ける。
「え」
何が起きたのか。
「ここは、何処?」
先程まで見ていた風景とは明らかに違う。
「八雲さん?」
八雲紫は叶夢の数歩前におり背を向けている。そして振り返り、こう言った。
「ようこそ、幻想郷へ」
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