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艦隊これくしょん【幻の特務艦】
第二十三話 和解に向けて
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んでしまっている紀伊の肩をそっと葵はたたいた。そのたたき方には葵の心情がこもっていた。
「あなたは、あなたらしく、あなたにしかできないことをやってほしい。そのためにあなたを選抜したの。」
葵は最後に優しく紀伊に言ったのだった。


* * * * *


艦隊旗艦としての職務も不安いっぱいだが、紀伊にはもう一つ大きな不安要素がある。何しろ、あの尾張と艦隊を組んでいるのだから。最初の一日は紀伊が何を言っても尾張は無視を決め込んでいた。二日目は紀伊の哨戒プランに対して真っ向から反対を唱え、そして昨日の三日目の艦隊訓練では単独行動をしばしば行うので、ついに紀伊は旗艦権限をもって尾張を航行禁止にするというところまで言わざるを得なかった。こんな調子なので、同じ艦隊の阿賀野たちもやりづらく思ったらしい。ひそかに再編成の願いを葵に出したと葵本人から聞かされた。

これからどうしていけばいいのだろう。

これらのことを思い返していた紀伊は不安で胸が苦しくなるほどだった。
「紀伊さん?」
榛名が心配そうに顔をのぞき込んでいた。どうやら顔に不安が出ていたようだ。紀伊は自分を現実に引き戻そうと、軽く首を振った。
「すみません。何でもないです。榛名さんの方はどうですか?」
「私のところは・・・・やっぱり武蔵さんと矢矧さんが反発しあっていますし、野分さんに対しても・・・・・。しょっちゅう口論しますから、他の皆さんも居心地悪く思っていらっしゃるようです。」
私もそうですけれど、と榛名は苦笑交じりに言った。
「それに野分さんが慣れない艦隊旗艦の仕事で体調を崩していて・・・・。私も手伝っているのですが・・・・。」
艦隊旗艦というのは実際やってみると大変な仕事だった。平素の報告関係の仕事から哨戒の航路設定、物資補給の手配や戦闘訓練の内容スケジュールの決定、戦略会議への出席等となんでもやらなくてはならない。これだけでも大変なのに、妹のことまで考えなくてはならなくなると、負担が増すばかりだ。紀伊は第七艦隊に在籍していた当初のことを思いだしていた。こことそう大差はなかっただろうに、榛名はつらそうな顔一つ見せていなかった。本当にすごいことだと思うと、紀伊はあらためて榛名を尊敬する思いだった。
「私もです。旗艦の仕事もそうですし、妹のことも。あの子のことを理解しようとするんですが、うまくいかなくて・・・・。」
「紀伊さん、焦ってはだめです。」
榛名が優しく言った。
「焦っても何も出ません。最初からできる人なんてそんなにいませんし、すぐに関係が改善されるなら、そもそも悩む必要もないです。」
「でも・・・・。」
「私、以前ある本で読んだ言葉があるんです。」
榛名は陽光の降り注ぐ鎮守府中庭の窓を開け放った。さわやかな風が吹き込み、小鳥のチチチという音が聞こ
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