第二十三話 和解に向けて
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言われるのはその言葉だった。
「それは・・・よく言われました。今だってそうです。私には自信なんてないです。何も・・・・。艦隊を指揮するだけの器だって・・・・。」
葵は探るようにじ〜っと紀伊の顔を見ていたが、突然すばりと、
「あなたもしかして前世の記憶がないとか何とかをずっと気にしているわけ?」
「――――!」
思わずうろたえた紀伊に畳みかけるように、
「あなたには前世の記憶なんてなくてよろしい。諦めなさい!」
「そ、そんなにはっきりとおっしゃられると――。」
「当り前よ。いい?何故なら紀伊型空母戦艦は前世に存在しないからよ。紀伊型戦艦だって計画倒れ。だからあなたは全くのオリジナルなの。」
「それは・・・・ここに来る前に色々な方から伺いました。でも、それとこれとは・・・・。」
「どうだというの?」
「・・・・・・・。」
紀伊は詰まってしまった。前世の記憶がない、自分には積みあがった物がない、それは自身がない事の原因の一つなのかもしれない。だが、それがあるから自信がない事への言い訳になるのかと正面切って問い詰められれば答えは否である。前世の記憶がない云々以前の問題だった。要は自分の心構えの問題なのだ。
紀伊が黙っていると、葵がキッと椅子を鳴らして立ち上がった。
「紀伊。あなたもさっき言ったけれど、よく人間は器ということを口にするわね。『自分はその器ではありません。あの人はできる人だ、他の人を抱擁する器がある。』なんて。」
紀伊はうなずく。
「でもね、器器という人は、同時に自分や相手の可能性を狭めていることに気が付かないのよ。器って言ったら、要は物を入れるわけでしょ。それには当然入れられる限度ってものがあるわ。形をとどめておくことや尺度を現す分にはいいのかもしれないけれど、人間ってそんなに単純に割り切れるのかしらね。私はそうは思わないわ。」
「・・・・・・・。」
「あなたのさっき言ったことも同じよ。あなたはああいったことで自分の可能性を否定してしまったのよ。器なんてぶち壊してしまいなさい。そんなものに左右されないの。艦隊指揮官なんて千差万別、いろんな人がいて当然なんだから。」
もし、紀伊がこの時葵の正体を知っていたら、きっとこう質問しただろう。
―――あなたはどういう総旗艦だったのですか?総旗艦を引き受けた時、どう思いましたか?その重責はどれほどのものだったのでしょうか?・・・・。
だが、そう聞かれたところで、葵はこう答えるだけだろう。
「私は私。あなたではないわ。だからあなたの参考になることは答えられないし、あなたの立場になってこたえようとも思わない。今あなたが口にした質問は、あなたが見つけてこそ意味のある質問よ。誰かに答えを求めようと思ってはいけないわ。」
「・・・・・・・。」
黙り込
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