死人還り
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」
「さっぱり分からん。何だ、今の展開は。そしてこの襤褸布は何だ」
さっき俺の肩に掛けられたのは、薄汚れた緑色の羽織だった。いつも奉が羽織っているようなやつだ。
「まさかお前…自分が汚い羽織を羽織るだけでは飽き足らず、お揃いの羽織まで用意しやがったのか」
「気持ち悪いことを云うな」
昔、お前が忘れていったのだ。そう呟いて、奉は羽織をはぎ取った。…当然、俺には覚えがない。だが、どういうわけか妙に納得している自分がいた。
「俺が、生まれる度にこの洞に戻ることは、話したな」
「戦前にも変な神主がこの洞に巣食っていたことは確からしいな」
奉は鼻から短い息を吐いて笑った。
「何故か、毎回居るんだよ。お前みたいなのが」
―――は!?
今度は何を言い出す気だ?
「それが同一の個人なのかどうかは正直知らん。容姿はバラバラだし、性格も毎回微妙に違う。長生きする事もあれば、夭逝する事もある。ただ、お前のような立ち位置になる男が、必ず居るんだ。いつ戻ってきても」
奉は崖のぎりぎりに立ち、町を見渡した。
「前回の結貴ポジションは、あの婆さんの旦那だった。羽織は、その旦那の忘れ物だ」
「―――知らないよ、俺は」
知るものか。俺までお前の前世遊びに付き合わせるな。
「そうだな。転生と考えるより、憑依と考える方が、まだ真っ当だ」
背を向けているから、奉の表情は見えない。
「だから結局、本当のところは分からん。それこそ婆さんを殺して、三途の川の向こう側を確かめさせるべきだったのかもしらん。…ただこれで、婆さんの中には一つの『思い込み』が出来た」
振り返った奉の頬に、不敵な微笑が張り付いていた。
「『あの人』は、今どきの青年に生まれ変わり、別の生を歩んでいる。死んでも迎えには来ない」
「………あ」
「死人は、還ったのだよ。元の神社に」
―――そうか。
俺がその旦那の生まれ変わりでいれば、当分婆さんが崖っぷちから自らダイブする心配はないってわけだ。
「生まれ変わりかどうかはさておき、お前は奴によく似ているよ。…雰囲気とか」
そう言い残して、奉は再び洞に戻った。
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