死人還り
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温かい茶で満たされた。…奉の言葉を鵜呑みにするわけではないが、要はどう転んでも、婆さんの願いは叶いようがないのだろう。何故か、鉛でも呑まされたように腹が重くなった。今日は、きじとらさんが淹れてくれた茶を頂いたら帰ることにした。
八重桜の花も見頃を過ぎ、あとはただ残った花弁が風に散るに任せる、そんな時期になっていた。俺は何度か神社に顔を出したが、婆さんには会わなかった。タイミングが悪かったのか、参拝を止めたのかは分からない。今日も長い石段を踏破して境内に辿り着く。
―――婆さんが、八重桜の舞い散る境内脇の崖上で、佇んでいた。
猛烈に嫌な予感がして駆け寄った。が、俺の足音に気が付いたのか、婆さんが振り向いた。
「……あら、今日も榊を替えにきたの?」
婆さんは今日も、穏やかに笑っていた。今までもそうだったように。
「はい…あの」
「偉いのねぇ。ちゃんと家のお手伝いして」
そう云って、何故か懐かしそうに俺が提げていた榊を眺めた。
「……ここの榊を替えるのは、亡くなった主人の仕事だったのよ」
「………!!」
まさかの玉群関係者!?
「変わり者の神主さんが、社の裏に住み着いて。なんだか放って置けなくて、結局、面倒見ちゃってたのよ。…今の、貴方みたいに」
悪戯っぽくコロコロ笑って、婆さんは再び視線を崖の方に戻した。ここは町を一望出来るスポットなのだ。
「知ってるんですか?…俺とか、奉のこと」
「なんとなくね。…あの頃の、あの人達みたいだもの」
ずっと崖の向こうを見ているから、その表情は伺えない。かといって立ち去り難く、俺も無言で町を見下ろしていた。
「…そろそろ、あの人に会えるかしらね」
俺は何も言えず、やはり帰ろうとした瞬間、俺の肩に何か布のようなものが掛けられ
ぐらり、と視界が歪んだ。
降り注ぐ砲弾や肌を焼く戦火。喉の渇き…なんだ、この感覚。俺は…最期に会いたかったのは…
「八重…?」
思わず、口走っていた。目の前の婆さんが、弾かれたように振り返った。…その感覚はほんの一瞬だったし、なんで八重とか口走ったのかも分からない。ただ、婆さんが俺の前で、背を丸めて泣いていた。
「あ…あれ?あの、大丈夫ですか…?」
「ここに…こんなところに…居たのね」
もうそんなに経ったのね。そう繰り返しながら、婆さんは暫く泣いていた。俺はどうしていいのか分からず、呆然と立ち尽くしていた。やがて、婆さんが涙でさらにしわしわになった顔を上げて、いつものように笑った。
「…私は、貴方に会いに来ていたのねぇ」
婆さんは今日はお参りをしないで、石段を下っていった。いつまでも俺に手を振りながら。いつしか俺の後ろに立っていた奉が、にやりと笑った。
「どうだ、我が社の霊験は
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