死人還り
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わん」
「おっさんのような言い回しを…」
奉がにやりと笑って、傍らに置かれた鯛焼きを頬張った。
「それなら、あの熱心な信者の願いを叶えろよ、ご自慢の霊験で」
嫌味を云ったつもりだったが、奉はふと考え込むように顎に手をあてて俯いた。
「……俺は、あの『願い』を叶えていい、ものだろうか」
「……は!?」
婆さんの願いを知っているのか!?そう言いかけた刹那、岩の扉がごりごりと動く音がした。
「お兄ちゃ〜ん」
日差しのように明るい、甲高い声が書の洞を満たした。奉は眉根を寄せて、顎にあてた指を放して立ち上がる。
「お、縁ちゃんか!」
自然と声が高くなる。俺がこの『奉の世話役』という労ばかり多く実りの少ないポジションから抜け出せない数少ない理由の一つがこの、奉の妹にあった。
縁ちゃんは奉とは異なり、ごく普通の少女に育ち、ごく当たり前の地元の高校に通っている。ぱっちりした瞳と小鹿のようにすらりとした肢体はそのままだが、最近なんというかこう…何ともいえない艶やかさみたいなものを感じる。色気まではいかない、でも子供の頃のままとも言い切れない微妙な変化に、少しどぎまぎする。
「…婆さんの願いを叶える手は、ある」
背後の書棚に隠された戸を押し開き、奴は呟いた。…うわこいつ、また逃げる気か。
「明日、婆さんが最後の石段を登り終えた瞬間」
「石段…?」
「お前、正面から婆さんの両肩を思い切り押すといい」
「ばっ…そんなことしたら…!!」
「―――叶えちゃならん願いというのが、ある気がするんだなぁ」
そう云い捨てて奴は、羽織を翻して隠し戸の奥に消えた。
「結くん、またお兄ちゃん逃がしたね」
縁ちゃんがそう云って、頬を膨らませた。
「そろそろ髪が伸びてたから、切ってあげようと思ったのに」
「勘弁してやってよ…」
「今度の髪型はすごいよ!毛先をワックスで遊ばせたアシンメトリな感じでー」
「アシンメトリがまずいんだよ…」
美容師でもないのに本だけ見て雰囲気で思い切りよく切りまくるので、この子に切らせると虐めにでも遭ったかのような惨状になる。そして闇雲にアシンメトリという言葉が好きで、出来上がった左右非対称な上にざっくざくな髪型をずっと見ていると、心の奥底がざわざわする。
「えー、かっこいいのに」
そう云って、奉の机に寄りかかって紙袋をぽすんと置いた。
「着替えと差し入れ。お兄ちゃんに渡しておいてね。…あ、おやつゲット」
そのまま机上に座り、足を組んだ。そして奉が残していった鯛焼きを小さく齧る。俺は…デニムのショートパンツからすらりと伸びる脚が綺麗だな…とそんなことばかり考えていた。
「さっきさぁ、いつものおばあちゃんとすれ違ったよ」
不意に話を振られ、少しびくっとなる。
「そ、そう
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