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真田十勇士
巻ノ五十七 前田利家その十三

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「だからな」
「はい、ここは」
「その様にされますか」
「そうする、そしてじゃ」
 秀吉は今自分に応えた石田と大谷に言った。
「御主達はな」
「はい、忍城ですな」
「あの城をですな」
「攻めよ」
 こう命じたのだった。
「わかったな」
「そうしてですな」
「あの城を手に入れるのですな」
「小田原城を囲み他の軍勢で北条家の他の城を攻め落としていく」
 小田原城という幹を動けなくしてだ、そのうえで枝を一本一本切り落としていく。そうしていくというのである。
「よいな」
「そして忍城も」
「あの城もですな」
「あの城は攻めにくい」
 そのことがわかっているからこその言葉だった。
「しかも城主は強い」
「成田殿ですな」
「あの方ですな」
「成田には男子はおらぬが」
 しかしとだ、秀吉はさらに言った。
「姫がおる」
「確か甲斐姫といいましたな」
 大谷が応えた。
「大層な武芸者だとか」
「だからじゃ、城攻めにはな」
「気をつけることですな」
「だからこそ御主達を行かせるのじゃ」
 秀吉子飼いの者達でも特に優れている石田と大谷をというのだ。
「よいな」
「ですか、それ故に」
「我等を」
「そうじゃ」
 まさにという返事だった。
「行かせるのじゃ、しかしな」
「しかし?」
「しかしとは」
「焦ってはならぬ」
 秀吉は二人にこうも言った。
「焦って攻めてはじゃ」
「かえってですか」
「ことを仕損じると」
「そうじゃ、特に佐吉御主じゃ」
 石田を見ての言葉だ。
「御主は焦る時がある」
「はい、確かに」
 石田の己を振り返り冷静に答えた。
「それは」
「そうじゃな、御主は生真面目じゃがどうもじゃ
「ことは順調に進まねば」
「急ぐ傾向がある」
 そしてそれがというのだ。
「焦ってかえってな」
「仕損じることにですな」
「なっておる、だからじゃ」
「ここは物事を抑え」
「そしてじゃ」
 まさにというのだ。
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