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小才子アルフ〜悪魔のようなあいつの一生〜
幕間 フレーゲル男爵の憂鬱
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 「アンスバッハ、相手を務めろ!」
 「喜んで」
 アンスバッハはシミュレーターの筺体の中で、シューマッハにフレーゲルを守ってくれるよう依頼したことを正しかったと思った。
 長年の忠誠が報われた思いに、彼は流れる涙をこらえることができなかった。

 動機はともかくとして、若き日の訓練は実を結ぶものである。
 フレーゲルがマールバッハ伯爵からシミュレーターで三本に一本取ることができるようになるまで、時間はさほどかからなかった。剣で四本に一本、格闘技で五本に一本取れるようになるのはもっと早かった。そしてフレーゲルや同様に貴族の務めに精励したヴェルナー・フォン・シャイドを介してブラウンシュバイク一門がマールバッハ一門と友好関係を樹立し勢威を回復するのは、さらに早かった。帝国暦四七六年が後半に入るころには、マールバッハ伯爵主催の園遊会には半ば逼塞していたブラウンシュバイク一門の貴族が多く姿を見せるまでに、ブラウンシュバイク公爵家は権勢を取り戻していた。
 無論、ブラウンシュバイク公が父親譲りの政治力を発揮したことは言うまでもなかった。
 かくてブラウンシュバイク家の人々にとって激動の帝国暦四七六年は多少騒がしくはなったものの平穏に暮れていく、かに思われた。

 「ヨアヒム、ヨアヒムはおるか!」
 充実した日々を送るフレーゲルに唐突な危機が訪れたのは、新年まであと数日を残した十二月の末であった。
 「なんですと、伯父上、それは真でございますか!」
 マトリクス通信でフレーゲル家の領地支配を代行させている家臣の報告を聞いて指示を与えていたフレーゲル──水害に遭った土地の税の減免や被災した農奴の保護、勤勉な農奴の解放や自営農民の表彰などは例えばクラインゲルト伯爵などにとっては当たり前のことであったが、フレーゲルにはほんの三年ほど前には思いつくどころか思いついた者を蔑みすらしていたことであった──は突如切り替わった通信スクリーンに姿を現した伯父から伝えられた決定に数ヶ月前以上に驚愕した。
 明晩、新無憂宮に帰還兵を招待しての晩餐会が行われる。むろん東苑のごく外側の建物でしかないとはいえ、身分卑しい平民の下級兵士が新無憂宮にあがる。その事実は衝撃ではあったが、もはや驚くに値しなかった。
 彼を驚嘆させたのは、皇帝が自ら帰還兵の給仕を務めるということ。
 そして、副給仕にクロプシュトック侯息ヨハンやランズベルク伯息アルフレット、従兄弟のシャイドとともにフレーゲルも指名されているということだった。
 「何と…何という危険な名誉か…」
 発案者がいずれの敵か、リッテンハイムかリヒテンラーデか、あるいはカストロプやベーネミュンデに連なる者なのかを探る暇はない。いずれであるにせよ、選民思想を崇拝するフレーゲルの人となりを知って仕掛けられた罠である
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