幕間 フレーゲル男爵の憂鬱
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める。家臣の体の中で唯一動きを止めぬ目が、フレーゲルをさらに苛立たせた。
だが、自制心に欠けるとの咎で爵位を取り上げられる危険を思えば、怒声を叩きつけるわけにも鞭を振るうわけにもいかぬ。
「シューマッハ、訓練室へ行くぞ」
「はい」
結局、フレーゲルは怒気を発散するのにこの数カ月の習慣──戦技訓練室で斧を振るい、自身の側近であるレオポルド・シューマッハという名前の大尉やブラウンシュバイク家の私兵を相手に格闘技で汗を流すという方法を選択した。
「私だからと遠慮するな!殺す気で来い!」
「し、しかし…」
「死ねば私に貴族の心得が足りなかったというだけのことよ!伯父上にも報復などさせん!」
「た、大尉…」
「仰せに従え、ヨハン」
権勢衰えたフレーゲルには皇帝の傍らでかつての復讐の機会を狙っているであろうクロプシュトックとその一派の耳目を逃れ、さらに恐るべき黒薔薇の勅令から逃れつつ怒りを鎮静化させる方法はひたすら貴族の務め、武を鍛えることに励むしかなかった。
「打ち込みが甘いぞ!殺す気で来い!私を叛徒だと、恥知らずの薔薇の騎士だと思え!」
「そうだ!倒したらすぐ刺せ!」
「シューマッハ、相手を務めろ!」
この日フレーゲルは三時間に渡って後難を恐れて手を抜きがちな兵士を叱咤し、一方的な暴行を楽しむためでなく戦闘技術を磨くために拳を振るい斧を振るい、ヨハン・ジングフーベル一等兵ら兵士の全力の一撃やシューマッハ大尉の容赦ない一撃に幾度となく打ち倒された。そして誓約は守られ、兵士が後難を受けることはなかった。皮肉にもというべきか、他の門閥の劣位に立たされ君臣ともに滅亡の恐怖に支配されたことを契機として、フレーゲルは真の意味で貴族となりつつあった。日に日に体型は均整が取れ、動作に俊敏さを増していくフレーゲルの中でルドルフの右腕・副司令官ブラウンシュバイクの血は確実に目覚め始めていた。
「シューマッハ!士官学校に回線を繋げ!オスカー・フォン・マールバッハに対決を申し込む!」
「先日完敗したばかりでしょう」
「今度こそ叩きのめしてくれる!」
訓練の後に酒宴ではなく戦術シミュレーターに向かうなど、たとえマールバッハ家の者に角突きかかる口実が欲しいだけであったとしても、陰謀と頽廃した生活に明け暮れるかつてのフレーゲルからは想像もできないことであった。
『フレーゲル男爵、貴方がこれほど意欲的だとは知らなかった』
「新進のお前に負けたままでは、私は貴族を名乗っておれぬ、それだけよ!」
『応じましょう』
「これがかつての絶頂の日々であればひたすら頼もしいと思うところだが…今はこのよき日が一日でも長く続くことを祈るばかりだな、大尉」
「はい、中佐」
シミュレーターに座り年下のマールバッハ伯爵に恥も
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