優しさに触れる
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小さくして口を閉じた。きっと、自分でも何を言っているか解らなくなったのだろう。言いたい事は確かにあって、でもどうやって言えばいいのかが解らないのだろう。それがティアにも解ったから、敢えて何も言わずに、ぽつりと問いかける。
「…私、そんな顔してたの?」
「見間違いかもしれませんけど、そう見えました」
「……そう」
自覚はない。けれど、悔しそうだというのは的を射ていると思った。
足元にまで気を配れなかった事、転んだ事。アイツ等の思い通りになりたくないと思う気持ちと、誰かに見つかったという事。そのどれもが悔しくて、きっとそれが顔に出ていたのだろう。
「…最悪。そんな顔してたなんて。しかも見られるし」
「す、すいません」
「別にアンタが謝る事じゃないでしょう」
はあ、と溜め息をつく。白い息がふわりと出て、一瞬で消えた。
見られたくない、と思う。どんな顔をしているのか、誰にも知られたくない。ポーカーフェイスは得意技だが、それでは隠せていないとしたら。隠せていないから、この少年だって気づいたのだろう。
ティアが悔しそうな顔をすれば、それで喜ぶ誰かがいる事を知っている。泣けば誰かがそれを嘲笑する事も知っている。怯えれば、求めた反応に笑う奴がいる事だって、ずっと前から知っている。
「……仕方ないのよ、顔はどうやったって隠れないもの。私が隠せてなかっただけ、それだけよ」
半ば諦めるように言う。
動きならどうにでもなった。言葉だって選べた。けれど、表情だけはどうにもならない。無意識に感情を浮かべてしまえば負けで、だからといってまだ意識的に感情を操作出来る訳でもなく。ポーカーフェイスが仕事をしない時だってある。いくら言動で本心を隠せても、顔がついてこなければ意味がない。
唇を噛みしめて、ああまただと自己嫌悪。こんなのは悔しいと自分から言っているようなものではないか。
「あの」
と、何事かを考えるように目線を落としていた少年が声を上げ。
「だったら、これ」
被っていた帽子を外し、そのままティアの頭にそっと被せた。
「……は?」
「これで少しは顔が隠れるかと思いまして」
白い、飾り気のない帽子。少し大きいのか被り方を考えないと視界が極端に狭くなるそれをずらし、視界を確保する。帽子を外した事でどこかすっきりとして見える少年は、正面からこちらを見て「うん、いい感じに隠れてます」と頷いた。
「…いや、解決してないでしょう。だってこれ、アンタのじゃない」
「差し上げます。前々から似合わない自覚はあったので」
「じゃあ何で被ってたのよ」
「被らされていた、と言う方が正しいです。外に出る時は帽子とマフラーをしろと、親がうるさくて」
理由は知りませんけど、と締めた彼に「
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