優しさに触れる
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「……」
「あ、雪で体を冷やしているでしょうから、温める事も忘れないでください。一先ず部屋に戻って……えっと、歩けますか?」
「歩けるけど……って、そうじゃなくて」
「?」
不思議そうに首を傾げる少年に、再度問う。
「アンタ、何をそんなに心配しているの?私が誰だか知った上でそう言っているの?」
「え、っと……カトレーン嬢に心配などと、立場を弁えていないのは重々承知で…」
「……カトレーン、嬢?」
「失礼ながら、お名前を存じ上げませんので……不快、でしたか」
そうじゃない。そういう事ではないと否定の言葉を出そうとして、言葉に詰まる。何を言えばいいのか解らなくて、こちらの返答を待つ少年を見つめた。
(カトレーン嬢と、言った。私を見て……異端児である私を、コイツはカトレーンとして見た……?)
それはつまり、この家の事情に疎いという証明だ。身内も、付き合いの長い旧家の人間も、ティアを見てカトレーンとは呼ばない。それだけ顔が知られていて、カトレーン側から「コイツに関しては扱いが雑でも構わない」とされているという意味でもある。仮に旧家以外から招待された相手だとしても話は同じだ。
私が誰だか知った上で。ティアはそう言った。それを少年は「下々の分際でカトレーンたる私を心配しよう、と?」といった意味に捉えたのだろうが、違う。そんな意味は、欠片だって込めていない。
「何で…」
「はい?」
「何でアンタ、私に心配なんて……ただ転んだだけよ、怪我だってない。大した事じゃないのに、何をそんなに心配して…」
座り込んだまま、下が冷たいのも気にしないまま、相手の目を見つめる。
解らない。ただ転んでいる女の子がいた、それだけの話なのに。それに声をかけて心配までする理由が解らない。
どうして嗤わない。どうして嘲らない。この家に出入りするなら誰だってティアがどう扱われるかを知っているのに、どうして見下さない。どうして―――――。
「……ちょっとだけ、泣きそうに見えました」
少年は、白状するように呟いた。
「多分、気のせいか見間違いなんですけど…声をかけて貴女が振り返った時、泣き出しそうに見えたんです。だけど、怪我をして痛いとか、そういう事じゃない感じがして、けどそんな事言うのは失礼かと思って。……悔しそうだなって思ったんです。放っておいてはいけない、とも。だから、その」
そう言って、最終的に何を言えばいいか見失ったのか、少年は萎むように声を
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