優しさに触れる
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……!もし誰かに現状を見られたとしても、私がその誰かを叩けば八つ当たりとしか思われないじゃない…!)
それは絶望的だった。この寒さの中で、頬を汗が伝う。
八つ当たり。言葉としては単純な、けれどティアとしては確実に避けたいそれ。そんな事をしようものなら、こちらが悪役にされてしまう。何もしていない誰かに手を上げたと騒がれて、悪と見なされて、それはつまり今以上の孤立で、それを相手は望んでいる訳で、それでは相手の思い通りで――――。
(マズい…絶対にマズい!誰かに見られる前に、何事もなかったように……!)
「あの…大丈夫ですか?」
控えめに、そんな声がかけられた。音一つ立てず―――雪を踏みしめる音すらなく背後に立つ誰かの声に肩を震わせて、即座に振り返る。
余程怖い顔をしていたのか、相手は帽子と前髪の奥の目を見開いて僅かに肩が跳ねた。然程年が離れていないであろう少年が、おずおずともう一度声をかけてくる。
「どこか痛みますか、さっき転んで」
「見たの?」
反射的に聞き返す。出た声は思っていた以上に冷たくて、少年はまたぴくっと震える。胸の前で手をぎゅっと握りしめて、それでも隠さず頷いた。
対して、ティアは少年を観察する。この屋敷に出入り出来るのはカトレーンの人間か使用人、もしくはカトレーンと古い付き合いの旧家の人間、カトレーン側に招待された誰か。極々限られた人しか出入り出来ず、更に子供となれば余計に数が減っていく。少なくとも髪と目の色から判断して身内ではなく、こんな子供を使用人として雇わなければならないほど大変な状況でもないし、となれば自ずと特定は楽になってくるだろう。特定が無理なら吐かせるだけだ。
見上げる視線に気づいたのは、帽子にマフラーの少年は少し慌てるように口を開く。
「す…すいません。見てはいけなかったのかもしれませんが、通りかかったら偶然…声をかけない方がいいかとも思ったんですが、起き上がってから動かないので心配で……」
「……心、配?」
「よ、余計なお世話でしたか。だとしたら申し訳ない…」
言葉通り申し訳なさそうに、どこか不安そうに少年は視線を落とす。そのまま唇を噛みしめるのが、座り込んだまま見上げるティアには見えていた。
その表情の意味を考えないまま、気づけば問うていて。
「心配…って、何が?」
「え?…貴女が怪我をしていないか、ですが。どこか痛いから動けないのかと思って……」
何を聞いているんだ、とでも問うように眉を顰める顔に、続ける言葉を失った。ぱちりと瞬きをして見返せば、すっとしゃがんだ少年がティアの足に目を落とす。
「見た感じ、怪我はしてなさそうですね。けどどこか打って痛めているかもしれないし…後できちんと見てもらった方がいいと思います」
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