55.第五地獄・天網恢界
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一閃。縦一閃に裂かれた真空の刃が俺の左右に着弾し、鋭い切断音と共に地面を深く穿つ。
『断罪之鎌』の本質はイデアの両断。衝撃波はその形が崩れても衝撃波のままだが、真空の刃とは言葉で形容するほど単純な現象ではない。拮抗が崩れればその威力はただの衝撃波にまで減退する。
しかし――降り注ぐ斬撃の数が多すぎる。一羽ばたきにつき左右合わせて六十近い空気のギロチンは、もし万が一多数集団に浴びせられたら最悪だろう。守ってくれるはずの仲間が邪魔で回避という選択が取れず、サイコロステーキのようにバラバラに切り裂かれてしまう。
『――氷造、集槍降雨ッ!!』
と、斬撃の合間に別の場所から透き通る凛とした声が響き、虚空を無数の氷の突撃槍が乱れ飛ぶ。リージュの魔法による攻撃だ。彼女は無事らしい。……オーネストもどうせ無事だし、ユグーに関しては心配もしていないけれど。
黒竜はその巨体――いや、よく見れば最初の形態よりスリムになっている気もする――を翼によって驚くほど軽やかに動かし、氷の槍の集中砲火を避けて見せる。先読みして狙った氷さえ自在な急停止、急加速などの三次元的機動で一発も当たらずに掻い潜っている。
外れた槍がダンジョンの壁に衝突して巨大な氷柱を生やす。あの氷の槍の中に、大型魔物さえ一撃で冷凍させるほどの冷気を詰め込んでいるらしい。オーネストの策の関係か力の使い方が恐ろしく緻密で柔軟になっているらしいが、黒竜の空戦経験がどうやら一枚も二枚も上手らしい。避けられた氷が空しく壁に着弾し続け、巨大な氷柱の列が蛇のようにうねる。
直後、もう動きは見切ったとばかりに黒竜は前の羽を空間ごと押し出すように羽ばたかせ、飛来する氷槍そのものを強引に風で吹き飛ばした。行き場を失った槍が地面に降り注ぎ、無数の氷柱がせりあがる。
間髪入れず、黒竜の灰が膨らみ、振り下ろされるような首から光学兵器染みた灼熱のブレスが地面に降り注ぐ。紙に落書きするようにブレスが地面を薙ぎ払い、直撃した場所が一瞬で融解して溶岩の道になる。
肌を焼く熱風から辛うじて逃れながら、俺は冴えない頭を限界まで回転させる。
(………相手は上からブレス・真空の刃・その気になれば飛び蹴りだの真空爆弾だのなんでも落としてこれる。対して俺たちは下から上へ豆鉄砲みたいな攻撃を撃つばかり。おまけに向こうは回避能力がバカ高いから並の攻撃じゃ当たらないし、あの鱗の強度も最初以上に上がっている)
地形的な優位は黒竜にある。
総合攻撃力の高さや攻撃範囲の広さもあちらにある。
機動力も明らかに今まで以上に上がっている。
おまけに魔物とは思えない学習能力。
魔力量、スタミナ、実戦経験、考えうるあらゆる要素がこちらにとって不利――いや、いっそ絶望
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