55.第五地獄・天網恢界
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あなたは、まだそちらに行くべきではありません』
子供のような姿の誰かの声が、俺の魂を引き戻した。
意識が、浮上した。
寝ぼけているような現実味のない眼を開けた俺は、しかし直後にこれが今という現実であることを否応なしに思い知らされる。
「ぁ……あぐううううッ!?……ごっ、……がふっ!!がはぁッ!?」
突然全身を襲うように現れた激痛に悶絶し、激しく咳込む。口から胃液交じりの血が漏れたことを悟った俺は、不快感を無視して濃縮ポーションを無理やり自分の喉に押し込んだ。全身が炙られるようなもどかしい不快感と引き換えに、それ以上俺の口から血が吐き出されることはなくなった。
シュウシュウと痒みにも似た異質な感覚が腕や腹を包む。ポーションで急速に傷が治癒されているときの感触だ。この感触から察するに、腕はもちろん内臓にも傷が入っていたらしい。あの激痛の中で咄嗟にポーションを取り出して飲む選択が出来たのは、冒険者としての本能が故だろう。
呼吸を整えて周囲を見渡そうとして――悪寒。咄嗟に地面に転がりながらその場を離れた瞬間、ギュバァッ!!とすさまじい音を立てて地面が大きく『縦に割れた』。その切れ目の深さは、天井からの光源が底に届かない程だ。
生命を喪う虚無の予感はまだ消えていない。俺は咄嗟に『死望忌願』にありったけの力を注いで大量の鎖を出鱈目に上方に展開した。ギュガガガガガガガガッッ!!と凄まじい衝撃が降り注ぎ、出鱈目に飛び狂う鎖たちに衝突しては拡散されていく。が、咄嗟の展開だったこともあって防ぎきれず、衝撃は無数真空の刃となってアズの下に降り注ぐ。
「ぐうっ……!!」
ブシュウッ、と手足や肩から鮮血が噴出した。まだポーションの効能が残っていたために傷口は何とか塞がるが、今の攻撃で俺はやっと衝撃波が何なのかを理解できた。
「なるほどこいつは――真空の爆弾じゃなくて真空の刃って訳かッ!!」
直撃を受ければ、恐らくは脳天から一刀両断。ここれまでの莫大な運動エネルギーを出鱈目に放ってくるのとはわけが違う、極限まで研ぎ澄まされた「コンパクトな」破壊力こそが、降り注いだ斬撃の正体だった。
『グガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!』
上方に未だ王者然と君臨する天黒竜が2対の翼のうち後方から生えた翼をはためかせた。羽の淵から生え揃った夥しく鋭角な棘が空気を切り裂き、それが無数の刃の雨となって地表に降り注ぐ。
大気をゆがめたように不自然に空間を歪ませた突風に刃の攻撃範囲は、悪夢のように広範囲だった。味方3人が今どこで何をしているのかは分からないが、確実に、庇う余裕が存在しない。素早く武器を『断罪之鎌』に切り替えて地面を抉り飛ばすように下から
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