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俺達は何を求めて迷宮へ赴くのか
55.第五地獄・天網恢界
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「感謝する必要はない。寝たままくたばった方が楽だったと思える現実が待っている」
「悪いが眠るような安らかな死には期待してないよ。俺の死に場所は俺が決める。お前もそうだろ?だから感謝は必要だ」
「そうか、なら勝手にしろ」
「相変わらず会話になんねぇヤツ……」

 愚痴っている訳でも気にしている訳でもない。こんな時でもオーネストがオーネストだと再認識できることに意義を見出しているというか、そんな男とつるんでいる俺自身が未だ俺であることの相互確認というか。ともかく、そのようなものだ。
 会話を続ける俺たちの真上から、万象を押し潰さんとするかのような滅気が降り注ぐ。それを浴びただけで自分の魂がぐちゅりと潰れてしまいそうな錯覚を覚える重圧に抵抗するように、俺は真上を見上げた。

 砂埃はまだ残っているが、その埃を散らす大胆なまでの翼のはためきが奴の姿をより鮮明にしていた。

 黒き古の戦士の再臨を歓迎しているかのよう、嵐に匹敵する風が吹き荒ぶ。
 それは、獣の次元を超えた威光さえ感じる雄姿。自らの肉体を再構成しても尚片側しか開かぬ深紅の眼は、空の王の威厳と矜持を示すように一点の曇りすらない。


 ――控えよ人間、愚かなる神族の劣化模造品よ。

 ――空の主、風の母、炎の申し子……『天の王』の御前である。

 ――羽を持たぬ劣悪種よ。跪き、泣き叫んで命乞いをしろ。

 ――それが、それだけが貴様らに残された最後の『権利』だ。

 ――これから起こるのは略奪でも簒奪でも、まして悲劇や不幸ですらない。

 ――あるべき場所に舞い戻った絶対者が、あるべきことを行い、あるべき結果が残る。

 ――故に。


 ――貴様らがここで死に絶え、その魂の煌きを失うは、必然なり。


 やはり、勘違いではないようだ。
 加速する心臓の鼓動と脂汗。反射的に握っていた鎖が、ほんの微かにカチカチと音を立てている。それは風の影響でもあり、別の要因でもあった。俺の中の『死』が、あれがそうだと囁いている。
 2年間……たった2年間、俺は自分の死が訪れるまでのロスタイムの中で安楽に生きてきた。生への旅路に死を引きずって、それが来る日を待っていた。

 そうか、こいつがそうなのだ。
 
 俺を終わらせる存在で、連続する俺の今日に終止符を打つ存在なのだ。

 しかし、違う。

 それは今日、ここに来てはいけないものだ。

 俺はなんて馬鹿な男なんだ、と自嘲する。
 自分が死ぬことなど織り込み済みの人生なのだから、明日など来なくともまるで構わないと思っているのも事実。なのに、今、俺は心のどこかであれを拒絶した。

 誰かがいつか、何かの理由で死ぬのは自然なことだ。
 死なないというのは、生がない――すなわち、も
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