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俺達は何を求めて迷宮へ赴くのか
55.第五地獄・天網恢界
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 『生まれる前の俺』と同じ世界にいたかもしれない男――そう考えると、不思議な縁を感じない訳でもない。

「………んん?つかぬことをお聞きしますが外人さん。アンタ日本語分かるの?というか俺の言ってる事理解できたうえで完璧な対応したよね?まさか――」
「話せば長くなりそうだな………ついてこい、お前の知りたいことくらいは教えてやる」
「マジか!そんじゃお言葉に甘えて知識をご教授させてもらいますかね!」
「あと、俺は騒がしいのは嫌いだ」
「おっけー」

 その一言で何かを察した男は、周囲を物珍しそうに見つめこそするものの、それについてオーネストに質問したり喧しい感嘆詞を口にすることもなくなった。初対面でここまで物分かりのいい男も珍しい、と思いながら、オーネストはその男を引き連れて自らの屋敷へと向かった。

 思えばそれが、俺の苛立たしい毎日に一石を投じた最初の出来事。

「異世界漂流記とか書いてみようかな。『トンネルを抜けると、そこはオラリオだった』……」
「『雪国』のパクリかよ。こんな世界にきてまで川端康成の力を借りようとするな」

 『オーネスト・ライアー』が初めて持った、友達だった。


 
(……あれから、2年か。この余裕のない非常時に言うのもなんだが、俺はこいつの世話を焼きっぱなしの気がするな)

 黒竜の放った攻撃で地盤滑落に巻き込まれたオーネストが真っ先に発見したのが、体が半分瓦礫に埋まっているアズライールだった。滑落のダメージからはまだ完全に立ち直っていないのか、周囲の状況を把握しようと顔を動かしては砂埃にむせてまったく把握できていない。

 『死望忌願』でも使ってさっさと立ち上がればいいだろうに、とも思ったが、よく見ると瓦礫の重量を押しのけるために『死望忌願』がアシストをしている結果、そこまで手を回していないらしい。どうしてここまで間抜けなのかと頭をかいたが、そういえばアズライールの戦闘指導は実質的に自分がしていたことを思い出して溜息を吐き出す。

(それでもやりようはあるだろうに……いや、魂を削りすぎて本能的に力をキープしているのもあるな。それを踏まえてもこれは無様だが)

 もしも二人とも生きて事を終えたら、アズにもう少し力の使い方を考えさせるのもいいかもしれない。そんなことを考えながら、オーネストはアズライールの手を引いた。



 = =



 無数の瓦礫と砂埃に奪われた視界を取り戻すように身を捩っていると、突然手を掴まれて強引に引き上げられた。反動でどうやら半分ほど埋まっていたらしい体が瓦礫を押しのけて外に出る。冒険者歴2年のバランス感覚は意外と優秀だったらしく、俺の体はグラグラと揺れる足場の上でも難なく姿勢を取り戻した。

「さんきゅ、オーネスト………」

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