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俺達は何を求めて迷宮へ赴くのか
55.第五地獄・天網恢界
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早いのは、オラリオの地盤の一部を爆破してオラリオという街をその下のダンジョン内に叩き落す方法だ。これならば一度でカタがつく。或いは神共を皆殺しにし、その敵討ちだ何だと武器を取った連中を皆殺しにすれば、最終的にオラリオという街の経済システムは崩壊するだろう。完結するまでの過程でオーネストは誰かに殺されるかもしれないが、そればそれで別にいい。極論を言えば、自分の命も世界の行く末もオーネストの知ったことではないのだから。

 いい加減に、うんざりしていたのだ。
 この悪夢は、世界をぶち壊してしまえば覚めるのか、試してみてもいいかもしれない。
 その過程で俺を罵った男を斬り、俺を守ろうとする女を斬り、何も知らない子供を斬り、斬り、斬り、斬り、斬り、斬り――

「ちょいとそこの外人さん……聞きたいことがあるんだけど、いい?」
「――あ?」

 意識の外から唐突に聞こえた間抜けな声に、オーネストは首を向けた。
 珍しい、と思う。他人が自分に話しかけてくることもそうだが、そんな声に耳を傾けるという行為をしたのがひどく久しぶりの事のように思える。自分がこんな反応をすることが、オーネストにとっては珍しかった。

 そして、もっと珍しいものをオーネストは見ることになる。

「ケータイ落っことしちゃったせいで迷子なんだけど、交番って近くにある?」

 オーネストはその質問にしばし沈黙し、目頭を押さえて呻き、思った。
 オラリオの共通語ではない、はるか昔に聞いたことのある言語――日本語。
 そしてケータイという言葉に交番とくれば、日本人ならば何を言っているのか理解できる。

 何でオラリオに地球人の、しかも日本人がいるんだ。そう突っ込もうとしたが、オーネストはそれよりまず目の前のどこか頼りない印象がある男に現状を理解してもらうことが先決だと考えた。単なる迷い人ならば知ったことではないが、これは、初めてのパターンだった。

「……………この世界に携帯電話の概念はない。故に電波中継設備も携帯電話を開発する会社もない。更に言うとここは法治国家ではないし警察もいないので交番は存在しない」
「えぇー………ないわー。目が覚めたら異世界とかマンガだわー……」

 頼りなさそうな男はあからさまに脱力した表情で溜息を吐いた。
 男には今知り合いがいない。食料がない。社会的な立場もない。この世界の金も教養も当然ない。
 確信できるが、今現在この男の事情を知ったうえでアドバイスをしてやれるのはオーネストぐらいしかいないだろう。

 オラリオを滅ぼそうかと考えた矢先のこれだ。今回も世界は俺を破滅から遠ざけたかったのか、訳の分からない男を引き寄せたらしい。しかし、この世界に生まれて16年………こんなことが起きる日が来る可能性は完全に失念していた。

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