十九話:特別な人
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楽し気な祭囃子が遠くから聞こえてくる。
祭りの空気を肌で感じながらジャンヌはもう一度身嗜みを整える。
水色を基本にした花柄の浴衣。
こういったものを着るのには慣れていないために緊張してしまう。
彼はどんな感想を抱くかと期待と不安で胸の鼓動が大きくなる。
『遅れてごめん、ジャンヌ』
「あ、ぐだ男君」
紺色の浴衣を身を纏ったぐだ男が駆け寄ってくる。
別に時間は遅れていないのに自分を気遣う態度に少し嬉しくなりジャンヌは微笑む。
今日はジャンヌの方から夏祭りにお誘いをしたのだ。
「いえ、今来たところなので気にしなくていいですよ」
『本当?』
「はい。本当に一瞬しか待っていないような気がします。ぐだ男君の顔を見たからでしょうか?」
特に意識もせずに天然気味に言われた言葉にぐだ男は顔を赤らめる。
しかし、ジャンヌの服装を褒めなければならないと思い出して口を開く。
『その浴衣すごく可愛いよ』
「ありがとうございます。一生懸命選んだかいがありました」
本当に嬉しそうに笑ってくれるジャンヌの姿にぐだ男は見惚れる。
まるで太陽のように、その笑顔は夜の闇の中でもハッキリと輝いて見えた。
『じゃあ、屋台でも回って行こうか』
「はい。一緒に行きましょう」
二人で並んで歩き始める。
屋台の周りは色とりどりの光や、食べ物の匂い、人の話し声が飛び交う。
誰も彼もがこの空気を楽しみながら今日この日を楽しむ。
「夏休みもそろそろ終わりですね」
『そうだね』
「宿題は終わりましたか?」
ジャンヌの言葉にぐだ男は鐘の中に閉じ込められた安珍のような顔をする。
それは恐怖を抱いているようで、何かを悟ったような表情でもあった。
『……さ、最後の一瞬まで諦めないから』
「カッコ良く言ってもダメです。やっていないんですね?」
『人理焼却までには間に合うから……』
「目を逸らしてはダメです」
必死に全く終わっていない宿題から目を逸らすぐだ男。
だが、ジャンヌにピシャリと否定されてうなだれる。
『お、温情を……』
「宿題はやらないといけませんよ。はぁ……手伝ってあげますからちゃんと終らせましょうね」
『本当? ありがとう!』
「ですが、答えは教えませんよ。そうしないとぐだ男君のためになりませんから」
喜ぶぐだ男に少しため息をつきながら宿題を手伝う約束をする。
あの時のようにカッコいい彼はどこに行ったのかと思うが失望はしない。
こうしたところも彼の人に好かれる由縁だと理解しているからだ。
『あ、焼きそばだ。せっかくだし買ってくるよ』
「もう、反省しているんですか……」
叱られたことも忘れ、焼きそばの屋台に意気揚々と
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