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十九話:特別な人
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そ、それは、やっぱりぐだ男君のことが他の人とは違う……特別な人だと分かって……」
『うん、うん…!』
「私の好きという感情は他の人とは違うかもしれません。ですが……それでもあなたの傍に居たいと想う気持ちだけは間違いではない……それに気づけたんです」

 お互いの声が耳元で囁かれる。
 相手の顔も見えぬほどに近くにいるがゆえに体温も鼓動も全て相手に伝わる。
 これが幸福なのだと暖かくなる心が証明する。

「あなたを好きになりたい。他の誰かではなく、あなたに恋したい。それが私の想いです」

 少し距離を取り穏やかで美しい笑みを向けるジャンヌ。
 そんな彼女の姿にぐだ男は微かに涙を滲ませる。
 それほどに嬉しかったのだ。彼女に自分という人間が選ばれたという事実が。

「もう、そんな顔しないでください。こういう時は笑ってください」

 ジャンヌは泣きそうな顔をするぐだ男に困ったように微笑みかける。
 そして、ゆっくりと彼の頬に顔を近づけて―――優しく口づけを送る。

『あ……』
「ふふ…返事を待たせてしまったお詫びですよ」

 顔を真っ赤にするぐだ男に悪戯気に笑いかけるジャンヌ。
 ぐだ男は少し悔しくなり反撃に出る。

『口にはしてくれないの?』
「そ、それは……まだ早いと言いますか……」
『じゃあ、俺もこれで我慢する』

 彼女にやられたのと同じように優しい口づけを一つ、彼女の柔らかな頬に送り返す。
 自分と同じようにトマトのように顔を赤くするジャンヌに彼は勝気な笑みを見せる。

『これでお相子だね』
「そうですね……ああ、急に恥ずかしくなってきました」
『こっちもだよ』

 お互いに恥ずかしくなって顔を逸らす。
 どこまでも初々しい二人組であるが、まだバカップルと言われるようになる未来は知らない。
 そんな未来はさておき、打ち上げられた花火の音が二人を現実に引き戻す。

「あ……花火ですね」
『まだ、ちゃんと回ってないし、またお祭りを楽しみに行こうか』
「そうですね。時間は……たくさんありますしね」

 ぐだ男が立ち上がりジャンヌに手を差し伸べる。
 彼女は彼の手を取り、どこまでも自然に隣に並びながら歩きだしていく。
 繋ぎ合った手の指をしっかりと絡ませ、離さないようにしながら……。


 ―――二人の未来へと歩き出していくのだった。


 〜FIN〜


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