Side Story
少女怪盗と仮面の神父 29
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ました。賭けは契約に昇華される。責務を果たしてください、ハウィスさん」
「え? ちょっと、神父様……」
さぁ指輪を受け取れと、ミートリッテの右手を支えてハウィスに突き出すアーレスト。
「……神父サマよ。賭けは俺達の負けだ。もうどうしようも無ぇけど、今すぐ此処でやらせる必要は……」
「いいえ。この娘を護る余地を残しておきたいなら、立ち会い人が私だけである間に済ませてください。万が一、バーデルの人間に聴かれては困るでしょう? 躊躇うばかりで時機を見誤っては、最悪この娘が真っ先に殺されますよ」
「「……」」
ハウィスとクナートが顔を見合わせ、俯いて唇を噛む。
「……ハウィス?」
限界まで寄せられた眉間の皺。閉じて尚ぎゅうっと強く瞑られる目蓋。握り締めた剣に反射する光の揺らぎで、彼女の震えが伝わる。
……元はシャムロックを現行犯で捕まえる為の罠。物的証拠である指輪を受け取るだけなのに、何故こんなにも苦しげに躊躇するのか。
無言の葛藤が数分続き、やがて
「……一歩……お控えください、アーレスト神父。ミートリッテは姿勢を正しなさい」
ゆっくり目蓋を押し上げたハウィスは、剣身を腰帯に下げた鞘へ戻し、背筋をピンと伸ばしてミートリッテと向き合う。
漂う厳格な空気。差し出していた右手が取られ、指輪を……
「…………え?」
一度は手中に収めた指輪を、何故かミートリッテの右手中指に装着し。
ハウィスはそのまま、ミートリッテの額に右手を翳した。
そして。
耳を疑う言葉が、少女の時間を止める。
「我……当代リアメルティ領主、ハウィス=アジュール=リアメルティ伯爵の名に於いて、汝……ミートリッテにインディジオ=リアメルティの名を授け、次期リアメルティ伯爵へと指名する。これは、国王陛下並びに叙爵権を有する我が主君の後見によって認められた爵位継承権認証の儀であり、アリア信仰が神父・アーレストの立ち会いの下、法に基づく正式な効力を持つものである。汝ミートリッテは、速やかに諾を返ずべし」
「………………なに、それ……」
巡る血液を固まらせたように、脳が理解を拒んで思考を排除する。
リアメルティ領?
うん、ネアウィック村を含む辺境の地域だね。当然この大森林も、隣の村や街も入ってる。七年も住んでるし、さすがによく知ってるよ。
で? リアメルティ伯爵? 誰が?
その人ならずっと、街の屋敷に住んでるよ?
ハウィス ハ ナニヲ イッテル ノ?
「……ッ! 速やかに「はい」と答えなさい! ミートリッテ!!」
「っは……ぃ……?」
(……え。ちょっと待って。今のは肯定しちゃいけない類いの何かだったんじゃ……え?)
ハウィスに怒鳴られ、大袈裟に畏縮した喉が勝手に答えてしまった。
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