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逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 29
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 「まだよ。まだ、総てではない」
 「いいえ。彼女の瞳は既に欠片を捉えました。取り消しは不可能です。この先を選ぶのは……ミートリッテさん自身だ」
 「…… っ!?」
 両手のひらを自らの顔横に上げたアーレストが、ミートリッテをその場に残して数歩退いた。
 言動を縛るものが無くなった少女は……しかし、一歩も動かず声も出さずにハウィスをジッと見つめている。
 正確にはハウィスの後ろ。
 大小様々な大量の石が転がる河岸と黒く繁る森との境目に現れた、大きな人影を。
 「クナート!? 何故……っ」
 ミートリッテの視線を辿り、肩で振り返ったハウィスが「名前を呼んだ」。
 ハウィスとよく似た装いで其処に立つ男性の名前を、ハウィスが。
 男性は声に出して答えない代わり、苦笑いで両肩を持ち上げる。
 証明は、それだけで十分だった。
 (……ああ……アーレスト神父は本当に、はぐらかしてもいなければ誤魔化してもいない。あの歌は正しく、私が知りたかった答えそのものだったんだ)
 「今すぐ下が」
 「ハウィス」
 どうして出て来たと憤るハウィスの前に立ち、ポケットから取り出した例の指輪を自分の右手のひらに乗せて、差し出す。
 向き直った女性の顔が、目に見えて引き攣った。
 「これ、本当はハウィスの所有物なんだよね? 引き渡す予定の時刻にはまだ早いと思うんだけど、折角会えたんだもん。今、返すよ。水浸しにしちゃってごめんなさい……「ヴェラーナ」?」
 「ーーッ!」
 冷たい氷が砕け散り、驚愕と動揺に取って代わる。小さく聞こえた息を呑む音が、繋げた線の正しさを認めてくれた。
 ならば
 「アンタ達も、文句は無いわよね。腐れ海賊もどきの……「アムネリダ達」と呼んだほうが良い?」
 足裏の痛みを堪え、爪先立ちでハウィスの肩越しに見知った男性の様子を窺う。
 男性は浅く息を吐いた後、狼狽えるハウィスの横に来て「どの道、時間切れだ。諦めろ」と彼女の肩を軽く叩いた。
 「よぉ。五日ぶりだな? 泥棒女。もっとも、俺達は約束通り、オネェサマとお前をずぅーっと見守ってたんだが」
 「約束、ね。よく言うわ。それがアンタ達の本来の仕事でしょうに。一応感想を述べさせて貰うけど、その体格にその制服は全然似合ってないわよ」
 「だろ? 俺もそう思う。布地は硬ぇし露出は少ねぇし見た目にも暑苦しいし、窮屈でしゃあねぇんだわ。コレ」
 否定の言葉も無しに右肩をグルグル回す……船室で酒瓶を呻っていた、黒い目の強面男。
 剥き出しだった筋肉が、今はアルスエルナ国軍所属騎士の制服に覆い隠されている。
 ハウィスとの違いは、勲章の数と着用位置。それから、清廉と忠実を表す純白の布地に飛び散った赤黒い染みの量。
 ハウィスの勲章は詰め襟部分と左胸の二つで、クナートは左
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