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或る皇国将校の回想録
第四部五将家の戦争
第六十三話 貴方がそれを誇りに思うのなら
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天魔のものであった。

 ひどく動物的な喜びが夏川の顔に現れた、生き延びるということはこの天下においてもっとも根源的な喜びであるのだろう。だが、今度はそれを恥じ入るかのような煩悶が彼の顔を赤黒く染めた。口を開くが声を出せなかったのだろう苦し気に肩を上下させ息を吸って吐く。

「――自分は、近衛禁士の将校です。ここで敵を食い止める義務があります。ほかの将兵たちと同じように」


「成程、成程、実に素晴らしい、実によい。だが違う。それは違うとも。
君に義務は存在しない。ここで戻ると言えば私は然るべき筋をつかって正当に君を連れ戻すことができる、君は誰に憚ることもなく戻ることができる」

 愉しそうに唇を歪めた眼前の英雄に夏川は語気を強めてもう一度繰り返した
「それでも――残ります、自分は――自分がそうするべきだと信じています」

「そう――か。君はここに残るか、わかった、君の決断に敬意を示そう」
 笑みを消して馬堂中佐は再び外の景色に視線を移し、夏川が安堵の息を吐いたのを見計らったように言った
「あぁそうだ、あともう一つだけ聞いておこう」
 奇襲を受けた騎兵を見逃す程に馬堂中佐は甘くはなく、本命を撃ち放った。

「君は――何をもって将校として振る舞っているのかな?」

 頭が真っ白になった青年はあまりに抽象的な予想外の質問に対し、必死に言葉を探す。
「自分は――部下とともに歩み、苦楽を共にすることが――将校としての役割だと思っています」

「そうか――人としては立派な答えだよ。だが戦地の将校は君の考えるようにあるべきではない.
新城司令曰く、将校は危機を管制するもの、だ。その意味が分かるか?」

「いいかね、中尉。我々の――将校の役割は死を恐れないことではない。敵を殺すことでもない。兵達に死を命じてなおそこにあり、務めを果たす事なのだよ」

「務め――」

「君は、危険を管制し、部下に殺人を命じ、自身の命で死ななかった兵を率い続けなければならない。――戦争とは地獄を管制しよいと足掻き続けるものだ」

「兵達を死地に追いやり、兵達に殺させ、兵達を死なせ、その果てに終わりの号令をかける役を演じる事が我々の役目だ」
 馬堂中佐はそっと鋭剣の柄を握りしめた。
「そして運が良ければ死を命られた者達の死が無駄でなかったと遺族に伝え、彼らは誰かを恨み続けることができる。これこそが我々の務めなのさ」

「我々は兵隊でも下士官でもない、将校なのだ。兵を率い、戦っている。生き残った兵達と死を命じた事への責任を負い続けるしかない。だからこそ我々は特権者として振る舞う事が出来る、兵達が命令に従うための権威となることができる。そこに疑問をもってはならない。我々は誰が死のうと責任を負い続けるのだ。軍という組織が存在し続け
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