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【WEB版】マッサージ師、魔界へ - 滅びゆく魔族へほんわかモミモミ -
第五章 滅びゆく魔国
第58話 大地に愛された人間
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眺める。
人間の陣地は、この三カ月で大きく変貌を遂げた。
まず、人間の軍は広大な畑を造ってしまった。
一様な畑ではない。
普通に見える畑もあるが、白く見える畑――小石のようなものが一面に敷き詰められている――や、ところどころにある樹木を囲むように円形に作られている畑、扇状で端に低い仕切りのようなものがある畑など、バリエーションに豊んだ農園だ。
魔族にはこの地で本格的な農業をする技術はない。
基本的に農地は川や水堀のすぐ近くの限られた土地にしかなく、小規模な畑作や牧畜をする程度である。
人間は農学や土木工学の分野においても魔族よりずっと進んでいる。
補給の負担を軽減するために農地を造成するということが予想できなかったわけではなかったが、ここまで規模の大きな農園を完成させられてしまうと、ぼくもルーカスも唖然とするしかなかった。
さらに……。
もう『砦』と呼んでもよいのでは? と思うくらいの立派な前線基地まで設営されてしまっている。
兵舎もあり、人間の兵は生活の質まで向上している雰囲気である。
長期間の野外生活による疲弊すら期待できなそうだ。
「これ、まずいよね?」
「ああ、まずい。我々はただ守っていればよいという状況ではなくなった。このままではこちらが先に潰れることになる」
人間側の弱点である、補給の問題を突くこと。
唯一の勝機かも知れなかった手が使えなくなってしまったことになる。
畑を潰すために打って出るにしても、兵力差は絶望的。
そしてリンブルク防衛戦の頃とは違い、有力な拠点はすでにほぼすべて人間に奪われている。まともに呼べる援軍も存在しない状況である。
苦しくなったようだ。
「しかし……あの畑は素晴らしいな。
詳しくはわからないが、蒸発を防ぐ技術、塩類集積を防ぐ技術、痩せた土でも育つ品種、乾燥や塩分に強い品種……我々にないものが沢山盛り込まれているに違いない。
人間はこの不毛の地すらも楽園に変える力を身につけたということだ」
ルーカスは農園を眺めながら、そう賛辞を述べた。
「この大地に愛されているのは我々魔族ではなく人間――そういうことなのだろう」
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