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【WEB版】マッサージ師、魔界へ - 滅びゆく魔族へほんわかモミモミ -
第五章 滅びゆく魔国
第57話 人間側の工夫
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でよく幹部の溜まり場になる。

「リンドビオル卿。籠城は順調のようだな」

 魔王がルーカスにそう声をかける。

「そうですね。魔王様と宰相様のご協力のおかげです」
「ククク、その通りだ。もっと感謝してほしいものだな」
「アルノーありがとー」
「いえいえ感謝には及びませぬぞカルラ様」

 ルーカスは空いているスツールに腰掛け、ぼくのほうに話しかけてきた。

「マコトよ、人間目線で何か気づいたことなどはないか?」

 最近彼がここに来るときは、よくそのように聞いてくる。
 恐らく、彼も少し不安なのだろう。

 だいぶ軍の人材も薄くなってきており、一人でなんでもかんでも考えなければいけない状況になることも多い。

 彼も神さまではない。
 いや、むしろ普段は抜けているところも多い。
 それを自覚して意見を求めてきているのだろうと思う。

 ただ、今のところはぼくから見ても特に何か気づいたことはない。
 それを伝えると、彼は「そうか」と言って微笑んだ。

 と、そのとき。

「リンドビオル卿……!」

 一人の若い兵士が臨時施術所に入ってきた。

「どうした?」
「投石があったのですが……」
「投石はずっと続いているだろう」
「いえ、それが。飛んできたのが石ではなく……布で」

「布?」
「はい、沢山の布を固めて縛った毬状のもので、兵士がそれを発見して解体して調べたのですが、中にはおもりがあっただけで何も入っていませんでした」
「ほう。さて、どういう意味があるのかな」

「ククク、石が尽きて布になったか。いかにも人間が考えそうなことだ」

 宰相はそんなことを言って笑うが……。

 何だろう。
 んー……。

 布。
 布……。

 ……げ!

「ルーカス! それすぐに燃やすように言って!」
「む?」

「たぶん伝染病で汚染されてる布だ! 触った兵士は隔離! 今後飛んでくるやつも着弾したらすぐ焼却! 急いで指示して!」
「そうか、わかった。すぐ指示しよう」

 ルーカスと報告に来た兵士は出ていった。

 思い当たる知識が自分の中に一つあった。
 アメリカ大陸。入植者とインディアンとの戦争で、入植者は天然痘に汚染された布を贈って病気を蔓延させようとした、と。

 マッサージの専門学校では『公衆衛生学』の授業があり、伝染病の歴史についても学ぶ。
 教科書ではペストの流行などがクローズアップされており、インディアン戦争のことは特に書かれていないが、ぼくが習ったときは教えてくれていた先生が雑談として話しており、たまたま覚えていた。

 恐らくそうだ。
 意味なく破壊力ゼロの布を飛ばすなどありえない。
 きっと汚染された布だ。


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