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【WEB版】マッサージ師、魔界へ - 滅びゆく魔族へほんわかモミモミ -
第三章 領土回復運動
第26話 意見書 ―治癒魔法が重大な疾病を引き起こす―
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っても治癒魔法でサクッと治しているらしい。
治癒魔法は、細胞分裂を大幅に加速させることで、破壊された体の組織を修復していると考えられる。
そうなると当然、細胞の複製エラーも多くなり、ガン細胞が多く作り出されることになる。
どんな健康な人間でも毎日ガン細胞は発生しているが、免疫システムがそれを破壊し、悪性腫瘍を形成してしまうまでは至らない。
しかし、人為的な細胞分裂の加速を長年積み重ねた場合はどうだろうか?
どこかのタイミングで、免疫システムで抑えきれないほどのガン細胞が発生してしまってもおかしくはない。
そして形成された悪性腫瘍がリンパ節まで侵してゆき、全身に転移――。
自然な推理のように思える。
意見書ではそのようなことを書いたうえで、「大きなケガでなければ、基本的に自然治癒に任せるべきである」という旨の提言をしている。
「……内容はたぶん間違いないと思ってますが」
「そうか。軍司令長官も一応納得したみたいでな。戦のとき以外では治癒魔法をなるべく使わないよう周知すると言ってたぞ」
「ありがとうございます。魔族の将来のためにもそのほうがいいと思います」
「フン。将来、か……」
魔王は一つため息をつくと、ベッドの上からじっとこちらを見下ろした。
もう見慣れた赤黒い瞳、それをぼくはすぐ前で見上げる。
魔王が手を伸ばしてきた。
そしてぼくの頭を手のひらでペシッと叩いた。
「……なんでだ」
「え?」
「なんでお前はもっと早く魔国に来なかったんだ」
「……そんなこと言われてもなあ」
苦情は新宿駅前の転送屋にお願いしますという感じだ。
もっとも、転送先の時代まで指定できたのかどうか謎だが。
「フン、お前が遅かったおかげで魔族は迷惑だ」
そう言うと、魔王はベッドにうつ伏せになった。
「あれ? 患者として来たわけではないって――」
「だまれ。やらせてやるんだから喜べ」
なぜか施術をするハメになった。
しかし……「もっと早く」か。
兵士への施術の効果は出てきており、以前とは別人のように士気旺盛になっていると聞いている。
先の戦での被害は大きく、再編成で一個師団を解散させるほどの人数減となったが、それを考慮しても軍全体としての戦闘能力は以前より向上していると思う。
そしてぼくの推論が正しければ、兵士病の発生は今後減っていくはずだ。
発病で除隊となるケースは減少し、経験を積んだ兵士の割合も増えていくことになるだろう。
だがそれらのことも、もう流れを変えるには至らないのだろうか。
大きな喘ぎ声をあげる魔王を施術しながら、そんなことを考えた。
「はい、終わりましたよ」
「ハァハァ……」
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