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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百六十三話 交錯する想い
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…。彼は目を開けていた。澄んだ色を湛えた眼だった。
「直ぐに鎮圧されるでしょう。だがその時にはエリザベート様、サビーネ様は反乱の元凶となっています。最後はランズベルク伯達に無理矢理自害させられる、反逆の首魁として最後を迎えるでしょう」
「ブラウンシュバイク、リッテンハイムの両家は反逆者になる。そういうことか……」
リューネブルクの言葉にガームリヒ中佐が無言で頷いた。誰かが溜息をついた。モルト中将だろうか?
ランズベルク伯アルフレットか。あのロクデナシのクズ。帝国貴族五百年の精華があのクズだというなら貴族など全て地獄に落ちればいい、クズが!
「アントン、ブラウンシュバイク公、リッテンハイム侯は卿らの行動を知っているのか?」
「知っている。止むを得ないという事だった」
リューネブルクとモルト中将が顔を見合わせるのが分かった。内乱の始まり、それを実感したのだろう。
「……失敗した事は伝えたのか」
「いいや、その時間は無かった。だが連絡が無いのだ、失敗したと判断しただろう」
二人とも内乱を決意した。いや、既に内乱は始まっていた、そういうことか……。やるせない思いが胸に湧き上がった。俺は領地替えの成功を望んでいたのだろうか? それとも内乱を望んでいたのか、分からなくなった、ただこんな形でフェルナーと会いたくは無かった。
「アントン、何故もっと前に私に相談してくれなかった。そうすれば……」
「無駄だ、エーリッヒ」
「……」
何かを断ち切るかのような口調だった。
「卿らの考えは分かっている。積極的には手助けはしない。生き残りたいなら自分の力で何とかしろ、俺達を当てにするな、そうだろう?」
「……ああ、そうだ」
「責めているんじゃない、当然の事だと思う。これまで門閥貴族の雄として勢威を振るった両家が一転して政府の庇護を受けるなど改革に対する平民達の信頼を失うだろう」
「……それでもだ、それでも相談して欲しかった。私は卿と戦いたくなかった」
「俺もだ、俺も卿とは戦いたくなかった。だがそれ以上に俺は卿と戦いたかった!」
「アントン……」
「卿の頼みでフェザーンに行って以来、ずっと思っていた。俺が全てをかけて戦えるのは卿だけだと。卿と戦えば苦しむのは分かっていた。それでも卿と戦っているときだけが熱くなれたんだ。苦しくて熱くて、まるで恋でもしているかのようだった。分かってくれるか、エーリッヒ」
「……ああ」
まるで告白でもされているかのようだった。フェルナーの苦しみが、喜びが聞こえてくる。本当なら俺は“ふざけるな”と怒鳴りつけるべきなのだろう。
それなのにどういうわけか、声が湿ってくる。何故だろう……。分かっている。俺はフェルナーと戦いたく無かった。フェルナーは俺と戦いたがっていた。
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