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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百六十三話 交錯する想い
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ッヒ。ほっともしているが……」
嘘ではないだろう、何処と無くアントンの声には明るさがあった。
「モルト中将、二人の手錠をはずしてください」
「しかし」
「良いんです。はずしてください」
一瞬モルト中将は躊躇ったが諦めたかのように二人の手錠をはずした。それと同時に装甲擲弾兵の右手がブラスターにかけられた。
「教えてくれ、随分と手際が良かったが前々から準備していたのか、この日のために」
「……そうだ」
思わず俺の口から溜息が出た。一体俺は何を見ていたのか……。
「理由を教えてくれ、何故だ」
声が掠れないようにするのが精一杯だった。
「……」
フェルナーもガームリヒも答えない。二人とも申し合わせたかのように眼を閉じたままだ。
「貴族達に領地替えの情報を漏らしたのも卿か? 彼らを暴発させ、あの二人を誘拐させ私をおびき出して殺す。それを狙ったのか、アントン!」
そしてその罪をローエングラム伯に擦り付け軍を混乱させる。可能だろう、今の軍なら可能だ。その思いが俺の口調を激しくさせる。押さえきれない激情が俺を捕らえた。
「違う、そうじゃない」
落ち着いた声だ。クソッタレめが、だから俺はお前が嫌いなんだ。
「どう違う、答えろ!」
フェルナーが眼を開け、ゆっくりとした口調で話し始めた。
「貴族達に領地替えの情報が漏れた。俺もガームリヒ中佐も必死で否定したが彼らは信じなかった。例の借金の返済が迫った事で疑心暗鬼になっていたんだ」
「……」
「領地替え?」
モルト中将が困惑するかのように呟くのが聞こえた。リューネブルクがモルト中将に向かって首を振るのが見えた。それ以上は問うな、そういう意味だろう。すまんな、リューネブルク、卿も知りたいだろう。いや卿の事だ、大体の想像はつくか……。
「彼らは何としてもブラウンシュバイク公とリッテンハイム侯を反乱に踏み切らせようとした。決して自分達を切り捨てるような事は許さない、そう言ってな」
「……」
何処か疲れたようなフェルナーの声だった。俺の暗殺に失敗した事が原因か、それとも貴族達の執念に対して疲れているのか。隣にいるガームリヒ中佐はまだ目を閉じたままだ。微動だにしない。一体何を考えているのか……。
「逃げ切れるかどうか不安だった。それでガームリヒ中佐と相談し万一の場合に備えた。事が起きるとすれば、宮中か卿の暗殺だ」
「……それで、私の暗殺ならどうする」
「卿の暗殺なら成功不成功に関わらず動かない。貴族達を説得しローエングラム伯に罪を擦り付け軍を混乱させる。実行犯達を潰し政府に恭順するか、政府と戦うかは軍の混乱がどの程度になるかで決めるつもりだった」
皆考える事は同じだ。何処かでラインハルトを利用しようとしている。ラインハルトが野心を捨ててく
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