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立ち上がる猛牛
第四話 苦闘の中でその五
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「アウト!」
 有田はアウトになった、ファン達は一瞬有田の鈍足を呪ったが。
 その次の瞬間にわかった、そのショートを見て。
「ちゃうわ、有田の足が遅いんやないわ」
「大橋やからな」
「あんな打球大橋しか取れんわ」
「そのうえでアウトに出来るってな」
「大橋しかおらんわ」
 まさにその通りだった、一代の名ショート大橋の守備が凄過ぎたのだ。この大橋も西本が見出し東映から阪急に当時阪急のショートだった阪本敏三、奇しくも今は近鉄のベンチにいる彼と交換で獲得した選手だった。
 その大橋のファインプレイで試合が変わった、あそこで点を取れば追加点だけでなく山田を崩せるかも知れなかった。だが山田はこれで立ち直り。
 アンダースローからのストレートとシンカーで近鉄打線を抑えていく、それに対して。
 鈴木は三回に一失点、五回に遂に逆転された。鈴木は踏ん張るが打線は復調した山田を打てない。山田は実は鈴木と共に本塁打を浴びることの多いピッチャーだったがこの試合ではそれもなかった。
 途中西本は判定を巡って審判にも抗議した、その抗議が審判を怒らせ危うく試合が流れそうにもなった。西本は明らかに勝ちにいき熱くなっていた。
 しかし試合は無情だ、野球というスポーツ自体が時として。
 阪急は一点リードで迎えた八回表だった、ツーアウトだったが。
 塁に出ている福本、世界の盗塁王と呼ばれる彼に盗塁を許したこともあり気が乱れていた、そこに勝負強い四番のマルカーノを迎えていた。
 マルカーノは四番の仕事を果たした、持ち前の勝負強さを発揮して鈴木のボールをスタンドに叩き込んだ、ここに勝負はあった。
 次の長池にヒットを打たれたところで西本はマウンドに向かった、ピッチャー交代を告げてから。そのうえで鈴木に対して言った。
「スズ、ご苦労さん・・・・・・」
 肝心な時、優勝がかかっている試合に打たれたそのエースを怒らなかった。普段は常に怒る西本だがそれは選手達を思えばこそだ。
 だからこうした時には怒らない、これまで足立も山田もシリーズの正念場で打たれてきた。だがその時も西本は怒らなかった。
 昭和四十六年のシリーズ第三戦で王貞治に逆転サヨナラスリーランを浴びた山田はマウンドにうずくまり動けなくなった、その彼も西本は一人迎えに行きこう言って泣く山田をベンチまで連れて帰ったのだ。
 だから鈴木がこれまで阪急、彼が育てたチームだけあり彼が最もその強さを知っているこのチームも他のパ・リーグのチームとも首位で戦ってこれたのは彼の力故にとわかっているからだ、打たれた彼にこう言ったのだ。
 鈴木はマウンドを去った、そして藤井寺の喧騒が聴こえるロッカーの中で一人うなだれた。
「またわしはこうした時に打たれたんやな」
 振り返れば常にと思う、その西本が率いる阪急と戦っていた
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