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立ち上がる猛牛
第四話 苦闘の中でその五
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時もそうで今もだ。今日こそは勝ち西本を胴上げしたかった。自分を技巧派に生まれ変わらせてくれて復活させてくれた誰よりもチームのことを考えている彼を。
 だがそれが出来ず鈴木は泣いた、近鉄は一点を返したがそれまでだった。山田は完投で一五〇勝の節目を迎えた。
 この試合で最後であり近鉄ナインは球場の食堂で納会となった、勝っていればそこで優勝を祝っていたがそれはなかった。
 西本はその席で選手達だけでなく裏方のスタッフ達にまでビールを注いで回った。
「この一年有り難う」
 この時にこれまで打たれて落胆していた鈴木は西本の異変を感じ取り立ち上がって言った。
「監督、辞めんといて下さい!」
「・・・・・・・・・」
 西本は何も言わない、だが鈴木はさらに叫んだ。
「わし等見捨てんといて下さい!」
 誰もが西本が辞任を決意しているのがわかった、西本はこの時は何も言わなかったが。
 次の日のスポーツ新聞の一面には西本退団の見出しが載った、これを観たファン達は仰天した。
「辞めるって」
「そういえば体調悪いって噂あったけど」
「監督のコメントやとまた来年とか思えんってあるけそ」
「西本さんらしいにしても」
「西本さん以外に誰がおるんや」
「近鉄の監督はあの人しかおらんやろ」
 誰もがこう言った、そしてそれはフロントも同じだった。
 佐伯はフロントの重役達を本社に読んでこう言った。
「他におらん」
「西本さん以外には」
「近鉄の監督はいませんね」
「あの人しかおらん」
「他の人は考えられません」
「あの人以外の誰も監督にせん」
 佐伯はこうも言った。
「わしが行く、わしが直接西本君と話をする」 
 こう言ってだ、佐伯もフロント全体も動いてだった。西本の慰留に必死に動いた。それはナインもファン達も同じだった。
 誰もが必死に西本に訴えかけ西本も遂にだった、その辞意を撤回した。そのうえでこう言った。
「来年こそは」
 こう言って翌年、昭和五十四年のシーズンに向かうのだった。その年は近鉄のとって球団創設三十年目の節目だった。そのはじまりに西本はかつて手放した二人の選手達にも匹敵するかそれ以上の選手達を手に入れるのだった。


第四話   完


                            2016・8・28
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