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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百六十二話 誘拐
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帝国暦 487年 11月23日 オーディン 新無憂宮 エーリッヒ・ヴァレンシュタイン
連絡は新無憂宮からだった。近衛兵からだったのだが、要領を得ない事おびただしい。分かったのは賊が入ったという事だけだ。直ぐに向かうと返事をしてTV電話を切った。
TV電話を切るとリューネブルク、モルト中将に連絡を取った。二人とも十月十五日以降は俺同様この宇宙艦隊司令部で寝起きをしている。呼び出しに直ぐ応じてくれた。二人とも寝起きは良いようだ。
「すぐさま動かせるのは装甲擲弾兵が一個大隊です。小官が護衛につきましょう」
「残りの部隊は小官が集めます、閣下はリューネブルク中将とともに新無憂宮へお急ぎください」
予め二人の間ではいざと言う時の打ち合わせは出来ていたのだろう。緊張はしていたが慌てることなく役割を分担した。余計な事を言わずに話を進めてくれるのも有り難い、頼りになる。
新無憂宮に向かう途中、僅かな時間だが何が起きたかを考えた。賊が侵入した。狙いは皇帝暗殺、或いはエルウィン・ヨーゼフの暗殺か……、両方というのも有り得るだろう。或いは誘拐か……。
フリードリヒ四世、エルウィン・ヨーゼフの二人を殺せば次の皇帝に就くのはエリザベートかサビーネに成る。一挙に逆転か……。まあ無理だろうな、捕まるのが落ちだ。しかし暗殺にせよ、誘拐にせよ成功しなくても良い、ブラウンシュバイク公、リッテンハイム侯を反乱に踏み切らせれば良いのだ。
実行犯は黒幕はブラウンシュバイク公、リッテンハイム侯の二人だなどと平然と罪を擦り付けるだろう。その場合、こちらとしてはあの二人をオーディンに召還する事になるが、果たして二人が素直に来るか? 周りがそれを許すか? それによって明暗が分かれる事になる。
新無憂宮に着いたのはエーレンベルク、シュタインホフ両元帥とほぼ同じタイミングだった。シュインホフ元帥が早速話しかけてきた。
「ヴァレンシュタイン、早かったな」
「お二方こそ早いですね」
何か話そうとしたシュタインホフ元帥が口を噤んで俺の背後を見た。分かっている、リューネブルクが俺の後ろに立ったのだ。俺を護るつもりなのだろう。そして完全武装の装甲擲弾兵一個大隊がその後ろで警戒態勢を取っているはずだ。
「随分物々しいの、装甲擲弾兵が一個大隊といったところか」
「念のためです、エーレンベルク元帥」
「どうやら事が起きたようだが何が起きたと思う?」
エーレンベルク、シュタインホフ両元帥に何と答えようかと考えていると咎めるような声が聞こえた。
「卿ら何をやっておる。早くこちらに来ぬか」
リヒテンラーデ侯が新無憂宮から苦虫を潰したような表情でこちらを見ている。機嫌が良くないらしい、どうやら事態は深刻なようだ。エーレンベルク、シュタインホフ
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