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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百六十二話 誘拐
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回の一件がトラウマにならなければいいのだが。
原作でもエルウィン・ヨーゼフを攫い最後は行方不明だ。奴が攫わなければ、あんな惨めな逃亡者としての一生を送らずに住んだはずだ。ラインハルトに帝位は奪われたかもしれないが、それなりの暮らしは出来たろう。
もっともアルフレットはそんな事は露ほども思わなかったに違いない。簒奪者ラインハルトを誹謗し、そのラインハルトを支持する帝国人を呪い、自分だけがエルウィン・ヨーゼフの忠臣だと酔ったに違いない。奴自身は自分が不幸だとは少しも思わなかっただろう。阿呆な話だ。
「娘達はどうなりますか?」
問いかけてきたのはブラウンシュバイク公爵夫人アマーリエだった。静かな声だった。だが痛いほどに耳に響く。リヒテンラーデ侯が躊躇いがちに答えた。
「殺される事は無いと思われます。殺すのであればわざわざ攫いはしません」
「……」
その通りだ、殺される事は先ず無い。だが残酷なようだがいっそ殺してくれたほうがブラウンシュバイク、リッテンハイム両家のためだろう。
「ただ……」
口籠もったリヒテンラーデ侯に代わってブラウンシュバイク公爵夫人が後を続けた。
「夫達の脅迫の道具に使われるということですね」
「……」
「御父様、娘を、私達の娘を助けてください。約束したのです、あの人と。必ずサビーネを護ると。御姉様も同じはずです。お願いです、御父様」
リッテンハイム侯爵夫人が崩れ落ち泣きながら皇帝に訴え始めた……。
俺達が皇帝の元から退出したのはそれから間も無くの事だった。皇帝、そして二人の夫人から何としても犯人を捕まえエリザベート、サビーネを取り戻せと命令された。
「厄介じゃの」
リヒテンラーデ侯の言葉に皆が頷いた。
「取り戻すためにはオーディンから出してはなるまい」
「軍務尚書の言う通りだが、なかなか難しかろう」
シュタインホフ元帥が腕を組みながら答える。
いつもの南苑の一室だ。部屋の外ではリューネブルクが護衛を務めている。新無憂宮で今一番安心できる部屋だろう。老人たちは椅子に座り俺は立っている。
「万一、オーディンから抜け出すような事になればブラウンシュバイク公、リッテンハイム侯は起たざるを得まい」
「内乱の勃発ですか」
軍務尚書と俺の言葉に皆が頷いた。
誘拐犯達が二人の娘を殺すという事は余程の事がない限り有り得ない。だが二人を旗頭に反乱を起すと言われたらどうなるか? 無視しても両家の娘が反乱を起したという事になる。両家が無傷ですむはずが無い。何より娘二人を見殺しには出来ない、ブラウンシュバイク公、リッテンハイム侯は起たざるを得ないだろう。
「あのお二方をオーディンから出しては成らん。ブラウンシュバイク公やリッテンハイム侯等どうなろうと構わんがあのお二方を巻き
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