巻ノ五十六 関東攻めその六
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「あまりない」
「そうですか、しかし」
「奥の言う通りか」
「それがしどうしても酒が好きで」
このことはどうしようもない、幸村もわかっているがどうしても飲んでしまうのだ。
「飲みますが」
「しかしじゃな」
「はい、やはり酒は過ぎるとです」
「毒じゃからな」
「奥方様の言うことは正しいです」
「その通りじゃな」
信之も何だかんだで頷く。
「酒は過ぎてはならぬ」
「はい、そうです」
「奥はわしを気遣ってくれておるな」
「まさにです」
「では奥がそう言う時は聞かねばな、もっともな」
「もっともとは」
「本多殿の娘御じゃ」
それでとだ、信之は幸村に笑ってこのことをまた話した。
「だからな」
「それで、ですな」
「うむ、強い」
「武芸も秀でておられますか」
「わしも腕に自信があるな」
伊達に真田家の者ではない、信之は軍略だけでなく武芸も秀でている。忍術を含めた武芸十八般を備えているのだ。
「しかしな」
「兄上の腕はそれがしも承知しているつもりですが」
「それがじゃ」
「その兄上以上ですか」
「いや、同じだけな」
流石にそこまで強くはないがというのだ。
「強いのじゃ」
「それはまた」
「おなごでそこまで強い者はおらぬ」
まさにというのだ。
「だから聞かぬ訳にはいかぬ」
「若し聞かねば」
「容赦なく挑んでくる」
「ですか、やはり」
「うむ、あの者は強い」
正真正銘のだ、そこまでの強さだというのだ。
「だからわしも聞く」
「そうですか」
「御主の女房はそこまで強くないか」
「武芸はともかくとしまして」
幸村は兄に応えて自分の女房のことを話した。
「やはりです」
「人してか」
「強いです」
そうだというのだ。
「やはりです」
「ふむ、そうか」
「大谷殿の娘御だけに」
「やはりそうか」
「うちの奥もまた強いです」
「出来た女房でか」
「はい、頼りにしています」
微笑んでの言葉だった。
「何かと」
「それは何よりじゃ、しかしな」
「それではですな」
「御主もまた女房を大事にせよ」
「そしてそのうえで」
「武士として大きくなれ、その道を歩め」
こう幸村に言うのだった。
「わしはこの家を守る」
「真田家をですな」
「そうするからな」
「そうされますか、では」
「うむ、精進する様にな」
「さすれば」
「しかし今日は祝いじゃ」
戦に勝ち兄弟が無事再会しただ。
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