巻ノ五十六 関東攻めその四
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「ですから泰平になれば」
「その時は修行に励みます」
「そして己を高めていき」
「殿と共にあります」
「そうしていくか、ならそうせよ」
泰平になればとだ、信之は十勇士達にも笑みで告げた。
「鍛錬をしていくがいい」
「はい、是非」
「そうしていきます」
「そして天下一の武士である殿にです」
「天下一の家臣達としてお仕えします」
「例え何があろうともです」
「殿のお傍を離れませぬ」
「よき家臣達を持ったな」
信之はここでまた幸村に言った。
「実にな」
「有り難きお言葉」
「大事にすることだ」
「家臣は宝ですね」
「何よりもな」
「そうしてくれ、しかしここでだ」
こうも言った信之だった。
「御主の宝がわかった」
「この者達ですな」
「うむ、これ以上はないまでのな」
「優れた馬に槍、刀もありますが」
「それ以上にだな」
「はい、そうしたものよりも遥かにです」
幸村は飲みつつも澄んだ目になっていた、そのうえで兄に語った。
「この者達はそれがしの宝です」
「そうじゃな」
「はい、何といいましても」
「なら大事にせよ、そしてな」
「そのうえで」
「生きよ、わかったな」
家臣達、十勇士と共にというのだ。そしてだった。
信之はまた一杯飲んだ、それから。
今度は十勇士達に顔を向けてだ、こうも言った。
「御主達は今回もよくやってくれた」
「いやいや、殿のご命令でそうしただけで」
「それだけのことです」
「ですから何もです」
「褒められることはありませぬ」
「御主達への褒美はわしからも父上にお話するが」
真田家の主である彼にというのだ。
「しかしじゃな」
「はい、別にです」
「我等は別にそうしたものはいりませぬ」
「禄は今のままで充分です」
「むしろ多い位です」
「馬や刀もいりませぬ」
「他のものも」
十勇士達も無欲でありだ、こう言うのだった。そうしたものはいらないと信之に対して言ったのだった。
「いりませぬので」
「殿と一緒にいさせて下さい」
「何時でも何処でも」
「共に」
「それだけでよいか、そう言うか」
わかっていてもだ、信之は納得した。
「成程な」
「はい、ですから」
「あまりです」
「褒美のことは言われないで下さい」
「今で充分なので」
「ですから」
「そうか、しかし一応話はしておく」
昌幸にというのだ。
「これも務めじゃからな」
「はい、それでは」
「その様にお願いします」
「若殿がどうしてもと言われるのなら」
十勇士も強く言わなかった、そしてだった。
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