巻ノ五十六 関東攻めその一
[8]前話 [2]次話
巻ノ五十六 関東攻め
沼田城を攻めていた北条の軍勢は援軍に来た幸村の急襲と城からうって出た信之の攻めで散々に打ち破られ逃げていった。
その彼等をかなり追ってからだ、幸村は言った。
「これでよい」
「これ以上は追わぬ」
「そうされますか」
「これ以上は真田の領地を越える」
だからだというのだ。
「追うべきではない」
「それではですな」
「兵をまとめそのうえで退きますか」
「城まで」
「そうしよう、して兄上じゃが」
幸村は彼の兄である信之のことにも言及した。
「城からうって出られたが」
「うむ、わしならここだ」
その信之の声がしてだった、そのうえで。
彼が馬に乗り姿を現してだ、こう幸村に言った。
「よく来てくれた、礼を言う」
「兄上、ご無事で何よりです」
「この通りな」
信之は馬に乗ったまま幸村のところに来て声をかける。
「城では死んだ者もいるがな」
「左様ですか」
「しかし死んだ者は僅かでじゃ」
「城は無事ですな」
「うむ、見事守りきった」
「それは何よりです」
「それでじゃが」
信之は幸村にさらに言った。
「御主が援軍に来てくれたということは」
「はい、父上のご命令でして」
「真田の道を通ってきたか」
「そうしました、それに」
「関白様が出陣されるか」
その目を確かなものにさせてだ、信之は幸村にこうも言った。
「小田原に向けて」
「もう出陣されているかと」
「既に北陸の上杉殿、前田殿が出陣されたとは聞いておるが」
「関白様ご自身もです」
「そうじゃな、では」
「北条家は」
「これで終わる」
信之もこう言った。
「まさにな」
「兄上もそう思われますか」
「関白様のお力は違う」
北条家と比べてもだ、関東の覇者である彼等と。
「だからな」
「それ故に」
「勝てるものではない」
「やはりそうですな」
「小田原城も陥ちる」
「どうして陥ちるでしょうか」
「そこまではわからないが」
それでもというのだ。
「あの城も陥ちる」
「そして北条家も滅びる」
「少なくとも相模、伊豆は守りきれぬ」
到底という言葉だった。
「そうなる、ではな」
「はい、我等はですな」
「まずは城に戻るとしよう」
沼田城の方を見つつだ、信之は弟に話した。
「そこに兵達を収めてな」
「そのうえで、ですな」
「まずは再会を祝そう」
「生きて会えたことを」
「そしてそのうえで北陸勢と合流しようぞ」
「さすれば」
こうしたことを話してだった、信之と幸村は兵を沼田城にまで退かせた。そしてそのうえで軍勢を城で休ませてだった。
[8]前話 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ