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百人一首
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第九十八首

第九十八首  従二位家隆
 秋が来た。夏は終わり今度は秋がきた。
 それは暦だけのことではなかった。ちゃんとしたものが自分にそれを教えてくれた。
 それが何かというと。目に見せてくれたもので。
 楢の葉に涼しい風が吹いてきていた。それは夏の風じゃなかった。紛れもなく秋の風だった。あの暑さを癒してくれる優しさはないけれど物静かで何かが香ってくるような。まさしく秋の風だった。
 その秋の風を見ていると。今度は川で禊をしているのが見えた。夏越しの行事をしているのが見えてきた。
 そういったものが教えてくれるものは。季節の変わりめで。
 夏が終わり秋になろうとしている。それを教えてくれる。今までそれを感じることはなかったけれど今風がそれを教えてくれたのだった。
 風が教えてくれたその変わり。そして目に入れてくれた。そういったものを見ていると自然に歌になって出て来た。それがこの歌。

風そよぐ ならの小川の 夕暮れは みそぎぞ夏の しるしなりける

 静かな秋になってきている今はそれを見るだけで清らかになる。夏もよかったけれど秋もまたいいもの。そのことに微笑みつつ今は秋が来たことを感じていた。この静かで美しい秋を。今は感じてそれを歌にした。風が教えてくれて川が伝えてくれたその秋のはじまりのことを。


第九十八首   完


                  2009・4・13

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