第65話 それぞれの旅立ち(後編)
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滝の様な雨が降る上野の山に二人の男が立っていた。
一人は雨傘をさし、一人は軍服にマントを羽織り、軍帽をかぶって雨をしのいでいるようだった。
男たちの周りには屍が広がり硝煙が漂いた。
「なぁ、釜さん。惨状をみろよ。ひでぇもんだぜ」
傘をさしている男が、悲しげに言った。が、鎌さんと言われたマントの男はそれに対して返答もせず、ただただ、下を向き、拳を握り、怒りを抑えているかのようだった。
「こんな戦争はもう終わらせなければな」
傘の男がぽつりと言った瞬間、マントの男は傘の男に顔を向け、睨みつけた。
た。「これが、これが、あんたの幕引きだっていうのか、勝さん!!」
そう、この二人こそ。元海軍総大将・勝海舟と現海軍指揮官・榎本武揚であった。
「なぁ、釜さん。俺が謝って済むなら、殴られて済むなら、斬られて済むなら、俺は喜んでそうするぜ。でも、もう、時代の流れは俺の手には負えなくなっちまった。」
勝は一つため息をついた。
榎本にどんなになじられても仕方がないとおもっていた。
「終わらせない。ここで終わらせてはならない」
榎本はぽつりとつぶやいた。
「釜次郎!!終わらせなくてはならんのだ!!」
その声を聴いた勝は大声で榎本に怒鳴った。
「終わらせてはならない!!ここで終わったら幕府の為に死んで逝った者達が犬死だ!!そんなことはこの榎本が許さない!!」
榎本は勝に掴み掛らんばかりに勝に歩み寄った。
「なぁ、釜さん。だからこそ、だからこそなんだ。これ以上、悲しい戦死者をだしちゃならねぇ」
勝の声が悲しみに震えていた。
「いいや、だからこそ、だからこそ、その魂に報いるために終わらせない」
勝の必死の説得にも榎本は揺るがないでいた。
「馬鹿者!!お前は死を引きづり、すべての憤りを背負うつもりか!!そんなこと、出来るわけはないんだ」
勝は榎本に恫喝した。が、榎本はそんな勝に背を向けて歩き出した。
「さらばだ、勝さん。もう、生きて会えぬかもしれないが、話せてよかった」
雨が地をたたき煙っているかのような風景の中を榎本は歩きだした。
「釜次郎。お前さん、本当にとことん戦うつもりかい?」
勝は榎本の背中に寂しそうに問いかけた。
「それは薩長の出方次第です。あくまでも薩長が旧徳川を滅ぼそうというのならとことんやるまでです」
榎本は勝に振り向くことなく雨の中に消えて行った。
「馬鹿者が」
勝の目から涙がこぼれた。
これより、数日後、榎本は艦隊を引き連れて北へと向かうのだった
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