暁 〜小説投稿サイト〜
百人一首
86部分:第八十六首

[8]前話 [2]次話

第八十六首

                第八十六首  西行法師
 何のせいだろうか。若しかして月のせいだろうか。
 この月のせいで今花びらが散っているのだろうか。夜桜は今静香に散っていっている。それまで咲き誇っていた花びらが今静かに散っていっている。それを見届けているだけで心がいたたまれなく寂しいものになっていく。
 そして次に。これも月のせいだろうか。月のせいで恋しい人を思い出すのだとうか。月を見るとそれだけで涙がこみあげてくる。
 それがどうしてかというと自分ではわからない。けれど月を見ているとそれだけでもの悲しくなり。そうして涙がこみあげてくるのだ。
 月は不思議なもの。桜の花びらを散らしてそのうえで恋しい人を思いださせる。そうしたことを忘れたくて今こうして俗世を捨てているのに。
 それでも思い出す俗世のこと。月に思い出させられる。このことを思い今歌を詠った。今いるのは月だけで他には誰もいはしない。それでも月が誘い出したもの悲しさに心を動かされ揺らされて。そうして今詠った。この歌を月明かりの中で。

なげきとて 月やはものを 思はする かこち顔なる わが涙かな

 歌にしたこの気持ち。静かに詠いその中で見るのは夜桜。想うのはあの人のこと。そうしたことを思いながら今こうして一人俗世を離れているつもりだった。けれどそれもどうにも適わず月明かりの中で俗世のことを思い出してしまう。月は何でも思い出させてしまう。このことにも気付いた夜だった。


第八十六首   完


                 2009・4・1

[8]前話 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ