80部分:第八十首
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第八十首
第八十首 待賢門院堀河
この夜のことは忘れない。
生きている限りずっと忘れない。そう心に誓った。
あの人にはじめて心を許した夜。昨夜の幸せのことは忘れない。
何があっても忘れない。どうして忘れることができようか。
けれどそんな中で。どうしても思ってしまうのだった。
今身を置いている昨夜の幸せは。一体何時まで続くのかと。不安を感じることもある。
思い乱れたもつれ髪。今乱れてしまったこの長い髪。
この髪を今は櫛で解きほぐしているけれど。これからもそれはできるだろうか。
櫛で解きほぐすことはできなくなるのではないか。心の中に生じてしまった不安はそのまま続いていく。それは消えはせずつきまとう。
女は悲しいもの。因果なもので。愛を得た喜びの日から。よりによってその時から。
その心に不安がつきまとうようになる。どうしようもならなくなる。不安で心が苛まれてしまってどうしようもなくなってしまう。
そんな因果なもの。その因果を思っていると歌が心に宿った。その不安に苛まれながらも今その歌を詠った。
長からむ 心も知らず 黒髪の 乱れて今朝は ものをこそ思へ
歌に託してみたわけではなく。ただ今の不安を詠っただけ。けれどその不安は喜びと共に大きくなるばかり。喜びが大きくなれば不安も大きくなってしまう。そうして苦しみに苛まれていく。因果なこの相反する二つのものを感じながら今は。まずは歌を詠うことにした。この苦しい気持ちを。
第八十首 完
2009・3・26
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