巻ノ五十五 沼田攻めその十一
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「相手にしてもな」
「それでもですか」
「何ということはないわ」
「徳川殿がどう思われていても」
「そうじゃ、わしは何も表に出さぬ」
相手がどれだけ嫌な顔をしてもというのだ、昌幸は幸村にこの場でも何でもないといった顔になって話している。
「では何の問題もない」
「そういうことですか」
「そうじゃ、では御主は御主の仕事をせよ」
「わかりました、では」
「すぐに沼田に向かうのじゃ」
「そして沼田の戦の後で」
幸村も言う。
「上杉殿の軍勢と合流ですか」
「前田殿の軍勢もあるぞ」
「前田殿ですか」
「そうじゃ、槍の又左殿じゃ」
昌幸は前田利家の名前を出す時には微笑んで言った。
「この御仁も天下の傑物じゃ」
「関白様が徳川殿と共に頼む」
「うむ、武も政も併せ持ったな」
「見事な方ですか」
「今も戦の時はその豪胆を出される」
織田家で自ら槍を振るい戦っていた時と同じくというのだ。
「それを見るのもよい」
「さすれば」
「沼田に行くのじゃ、よいな」
「わかりました」
「ではな」
「すぐに沼田に発ちます」
幸村は微笑み父に応えた、そしてだった。
幸村は出陣しようとした、だがここでだった。
上田城二秀吉の使者が来てだった、幸村は一旦呼び戻され昌幸に言われた。
「真田家全てが上杉殿、北条殿と共に行くことになった」
「父上もですか」
「そうじゃ、そうなった」
「左様ですか」
「そうなった、しかしな」
「それがしはですな」
「同じじゃ、沼田に向かえ」
このことは変わらないというのだ。
「よいな」
「はい、それでは」
「では真田家は全て北陸から攻め入る」
こう重臣達にも言った。
「わかったな」
「はい、関白様のお言葉ならば」
「是非です」
「そうしていきましょう」
「そしてそのうえで」
「戦に加わりましょう」
「この戦、勝つのは我等だが」
昌幸にはそのことがわかっていた、だが。
それでもとだ、今この場にいる者達に言うのだった。
「油断はならぬぞ」
「はい、油断すればです」
「その時が終わりの時ですからな」
「逆に我等が首を取られる」
「そうなってしまいますな」
「この度は生き残る戦じゃ」
昌幸はこうも言った。
「だからな」
「油断せずにですな」
「死なぬ様にすること」
「それが大事ですな」
「そうじゃ、油断するでないぞ」
重臣達にも幸村にも言う。
「わかったな」
「必ずここまで生きて返ってきます」
「殿の言われる通りにです」
「そう致します」
「ではな、出陣じゃ」
最後にこう告げてだ、そしてだった。
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