79部分:第七十九首
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第七十九首
第七十九首 左京大夫顕輔
夜になって静かになった。
夜風が心地よくこちら側に吹いてくる。
流れる雲の間から姿を現わしてきたものがあった。
それは月だった。月が雲の絶え間から姿を現わしたのだ。
この黄金色の月は大きく。その姿をはっきりと見せている。
けれど威圧するものは何一つとしてなく。その姿も光も優しいものだった。
その優しい月は。光も清らかで。
もれさすその日カリを見ているとそれだけで心を落ち着かさせてくれる。
夜風もあって月の光もあって。その二つの中に身を置きながらさらに時間を過ごす。
するとこう思えてきた。今の月の光は何かというと。それは自分なのだと。
月の光は自分の影。だから自分なのだと。自分で勝手にだがこう思うのだった。
そう思えてくると自然に歌が心に宿ってきた。その宿ってきた歌を口ずさむ。その歌がこれだ。
秋風に たなびく雲の 絶えまより もれ出づる月の 影のさやけさ
静かで優しい夜風と共に差し込める月の光は自分の影に思えてきた。思えてくるのもまた自然に思えてくるこの夜の世界。その夜の中に身を置いて静かにたたずんでいる。昼には決して感じることのないこの夜の清らかさと美しさ。何時までもいたいと思いながら今その中で月の光を見続けている。
第七十九首 完
2009・3・25
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