78部分:第七十八首
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第七十八首
第七十八首 源兼昌
夜はまだ明けてはいない。明けてもいないというのに。それでも声が聞こえてきた。
千鳥の鳴く哀れな声が聞こえてきた。
その声に起こされて。旅寝から目を覚まされてそれで起こされてしまった。
起きてみるとまだ暗く。空には星や月が残っている。
朝は来ていないのに起こされて。まずは虚ろな気持ちになった。
けれどそれでも。起きてしまったからには仕方がない。起きてしまったらまた眠るのもどうかと思われた。
それであれこれと考える。考えているうちにふとあることについて考えた。
須磨の関守。須磨には千鳥が多い。だからいつもこうした声を聞いているのだろう。あの関守達はこうして幾夜も目が覚めているのだろうか。そうして眠れないでいるのだろうか。そんなことを考えた。今ふと須磨のことを思い。それだけでは終わらず今度は歌が心に宿った。歌が心に宿ると自然と口から出て来る。それがこの歌だった。
淡路島 かよふ千鳥の 鳴く声に 幾夜寝ざめぬ 須磨の関守
淡路にいてそのうえで須磨のことを思う。千鳥に起こされてそのうえで思いはじめたことだけれどそれでも。歌は言葉に出て来た。虚ろな気持ちの中で。今この歌を詠い朝を待つことにした。まだ暗いけれどもうすぐ朝になることを思いながら。そうして待つことにした。
第七十八首 完
2009・3・24
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