あらはばき
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伝えと無言で促され、渋々手近なやつを持ち上げ、社の裏側に運ぶ。
「どうしたんだこれ。そしてどうすんだこれ」
「起きてきたらこうなっていた。…一番いいやつを一つ貰って、あとはヤフオクに出す」
「貰うのか」
結論から云って、俺の懸念が当たっていた。
混じりやすく、曲がりやすいということは、誤解を受けやすいということだ。俺はアラハバキが出てくるゲームや漫画を知っている。その中では何故かアラハバキは、遮光式土偶の形で表現されている。『東北で信仰されていた』『縄文時代に渡来した』この唯一はっきりしている2点をものすごく曲解された結果らしいのだ。何しろどんな神だったのか、ほとんど資料が残っていないのだから、考えてみれば創作し放題じゃないか。今や『謎の神』として、民俗学にほとんど関心がないゲームマニアから熱い視線を浴びている。
なんという皮肉か。隠れ蓑がむしろ注目を集めてしまうとは。
「……マハジオンガは、そこそこ使えるんだがなぁ」
お前もやってたんかい。
「アラハバキ=遮光式土偶の図式を作った犯人は『東日流外三郡誌』とかいうオモシロ古文書の作者、和田喜八郎だ」
「オモシロ!?」
「…まぁ、ラノベだと思え。そいつが著書の中でアラハバキの似姿として遮光式土器を使ったのが、すっかり定着してしまった。…あの時点で、何かに気づくべきだったなぁ」
あー、面倒くさいなぁ…奉神変えようかなぁ…などとぶつぶつ云いながら2個目の土偶を抱えた。
「君に決めた」
「本当に貰うのかよ」
「あとは砕いて境内の砂利にでも使うか?」
「嫌だよ呪われそうだよ」
「砕くこと自体は、本来の目的から外れてはいないんだがなぁ…」
奉はぶつぶつ呟きながら、2番目の土偶を抱えて洞に引っ込んだ。俺は残った土偶を洞の横に立てかけて置いた。ヤフオクに出すってんなら洞の傍が良かろう。洞の中から声がした。
「創作物の影響…これだけで終わるだろうか」
「あー…スマホアプリにでもなったりしたら積みだな、どうするんだ、奉」
「アナタはどの神と恋をする!?ちはやぶる神との恋物語!ちはやぶるで検索、検索ゥ!」
「……ありそうなこと言うんじゃねぇよ縁起でもない」
ふざけてる場合か。お前の庭だろうが。
「そんなことになったら聖地化だな。土偶ストラップとか売るか」
何をちょっとワクワクしているのだ。
「そうなったらアラハバキなんて完全なネタキャラだからな…期待するなよ」
「いや意外といけるだろ。あれだぞ、こんな。…この謎の仮面の裏側…お前にだけ魅せてやる」
煙色の眼鏡をくいと押し上げ、イケメンボイスを充て始めた。…死ぬまでやってろボケが。
………この懸念は後日、的中してえらい事になるが、それはまた別の話。
数日後。
また同じようなことがある
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