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霊群の杜
あらはばき
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ているとな、民族学者やら宗教学者やらが要らぬことを聞きまわることがちょいちょいあるのよ」
「要らぬこと……」
「名の知れた神を祀っていると、由来だのこの地域の古い信仰との関連だのと、面倒なことを聞かれるんだよ。場合によっては襤褸が出る」
襤褸って言ったか今。
「そういうとき『うちはアラハバキなんですよ、よく分からないんですけどねー』と云っておけば、奴らは大抵、半笑いで帰っていくんだ」
「何故」
「色々よく分かってない、とても古い神だからなぁ…」
言葉を切って、少し黙ったあと、ぼそりと呟いた。
「そして何より、重要じゃない。掘り下げるほどの価値がない」
「よく分かっていないんなら、知りたがるんじゃないのか」
「古すぎるんだよ。…日本に来たのが縄文後期あたりだぞ。奉ってた連中にとっても、アラハバキの性質もドグマも色々とグダグダだったろうなぁ」
そう云って、新たに注いでもらった茶を一啜りする。傍らのきじとらさんは、冷茶の器を掌でもてあそぶ。彼女は旨い茶を淹れてくれるが、決して自分では熱い茶は飲まない。
「そこに現れた、輪郭のはっきりした別の神格。そりゃまぁ、細かい設定考えるの面倒な古代人なら『あー、それ!アラハバキもそれで!』ってなるだろ」
「なるの!?」
「なるよ。つまり、アラハバキは混じりやすく、曲がりやすい神だ」
奉は、くぐもった笑い声を漏らして伸びをした。煙色の眼鏡が少しずれた。
「加えて渡来神…客人神だ。益々、重要性薄いだろ。ちょっとくらい設定がグダグダでも誰も気にしないのさ」
…良くは分からないが、俺は少し嫌な予感がしていた。混じりやすく、曲がりやすいのだろう?だが、敢えて何も云わなかった。起こっていない事にやきもきしても仕方がない。




 試験が終わり、色々と落ち着いた頃。俺は奉の両親に託された着替えを提げ、玉群神社の石段を登っていた。すっかり緑が濃くなった参道の木陰に、しゃがの花がひっそり咲いている。純白の楚々としたこの花が咲き始めると、参道が殺人的に暑くなり、しんどい季節がやってくる。苦しい息と共に、ため息が漏れた。
  やっとの思いで石段を登り切り、ふと目を上げる。その時、異様な物が俺の視界に飛び込んで来た。


―――人形?


 境内を囲むように置かれた、土塊をこねたような人形の中心に、奉が途方に暮れたように突っ立っていた。
「おい、なんだこの状況」
「俺が聞きたい」
近くで見ると、これはあれだ。…土偶。肩や腰が妙に張っていて、極端に胴がくびれているこの独特のフォルムと、細く水平に穿たれた双眸は、遮光式土偶だ。社会の教科書で見たことがある。
「……奉神を変えたのか?」
「何に変えたら土偶で境内を囲むんだ」
奉は心底面倒くさそうに、一番軽そうな土偶を持ち上げた。お前も手
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